研究課題/領域番号 |
20K05587
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
中谷 久之 長崎大学, 工学研究科, 教授 (70242568)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海洋生分解 / スイッチ機構 / ポリ乳酸 / ポリプロピレン |
研究実績の概要 |
以下の3点について研究を行った。1)水中でautoxidationを加速させる方法の開発、2)スイッチ機構の作動確認、3)スイッチ機構を持つポリプロピレン(PP)/ポリ乳酸(PLA)の生分解性の確認。 1)に関しては光触媒又は、ペルオキソ二硫酸カリウムに塩化鉄を加え約60℃に保持した水溶液を使い、耐候試験に比べて最大で20倍の速度でautoxidationを加速する事に成功した。この加速法の成功により、マイクロプラスチック(MP)化が迅速に行える様になり、本PP/PLAがMP化時に生分解性が発現するかどうか確認できるようになった。2)に関しては、autoxidation分解制御のためヒンダードアミン系光安定剤 (HALS)を使った。HALSはautoxidationが起こるとアルキルラジカルとドーマント結合を形成する。このドーマント結合は熱を加えることで再びラジカルに戻るため、熱処理の温度と時間を調整することでラジカルの量を調整できるので、分解のスイッチとしての機能確認を行った。具体的には、autoxidationを利用してHALSをPSにラジカルグラフトさせた。これを熱処理によりドーマント結合を解消させPS鎖中にラジカルを再び発生、autoxidationを再び開始させる。熱処理温度を変えることでラジカル発生によるPS鎖切断速度を制御できる事を確認した。3)に関しては、本研究では、PPとPLAをHALSで生成させたドーマント結合を利用してラジカル架橋してPP/PLAブレンドの相溶性を向上させた。その後、熱などの刺激を与えることで、架橋部分が開裂させてautoxidationを開始・低分子量化し、生分解性を発現させた。生分解性については生物化学酸素要求量(BOD)で評価した。生分解率はBOD30日で3%であったが、グリセリン添加で生分解率は約20%まで向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、「スイッチ機構により海中で迅速に生分解するPP/PLAブレンドの開発」である。スイッチ機構としては、TEMPO構造を生成するHALSを用いた動的共有結合の生成とその熱平衡を利用する。このスイッチ機構が予想の通り作用するかは、autoxidationを利用してHALSをPSにラジカルグラフトさせた。これを熱処理によりドーマント結合を解消させPS鎖中にラジカルを再び発生、autoxidationを再び開始させる。熱処理温度を120℃~170℃の範囲で変えてラジカル発生量を制御した。結果、温度を変えることでPS鎖切断速度を制御できる事が分かった。これにより、スイッチ機構が予想の通り、熱処理温度で発現・制御できる事が確認できた。海水中でautoxidationを加速させる事を簡易・短時間で確かめる事を可能にするために、加速化法の開発を並行して行った。その結果、ペルオキソ二硫酸カリウムに塩化鉄を加えた水溶液を使う事で、耐候試験に比べてPPを最大で20倍の速度でautoxidationを加速する事に成功した。また、模擬的に熱処理してスイッチ機構を発動後、所定時間水中光劣化を、PPとPLAをHALSで生成させたドーマント結合を利用してラジカル架橋してPP/PLAブレンドの相溶性を向上させた。その後、熱などの刺激を与えることで、架橋部分が開裂させてautoxidationを開始・低分子量化し、生分解性を発現させた。BODから算出生分解率は30日で3%低かった。その理由としてはポリマー内部への水の浸透性(親水性)の低さであった。グリセリン添加により、親水性を上げる事で生分解率は約20%まで向上した。 コロナ禍の影響により、2か月程研究室を閉めざるを得なくなり、生分解に代表される長時間を有する検討が一部行う事ができず、生分解性向上の検討が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
スイッチ機構発現の確認については、測定が簡略化できる非晶性のPSをモデルとして使い確認を行った。スイッチをON状態にする温度としては、150℃程度が良い事が分かったので、相溶化PP/PLAブレンドに適用したが、スイッチをON後でも水中でのautoxidationの速度やそれに続く生分解の速度の向上は僅かであった。理由としては、ブレンドの親水性が低く、水が内部まで浸透し難いためであった。そこで親水性が高く、PP及びPLAとも良好な親和性を持つグリセリンの添加を試みた。その結果、約6倍程度の生分解率20%(BOD30日)まで向上した。しかしながら、グリセリンの添加により相溶化PP/PLAブレンドの破断伸びの低下が観測された。この点を改善するために、グリセリン添加量の最適化を行う。PPとPLAは高い極性の違いにより非相溶性ブレンドである。単純な混合だけでは相分離を起こし、望む様な力学的特性は発現しないのでHALSを用いたPPとPLAのラジカル架橋で相溶化を行っているので合わせて架橋の最適を行う。 次に更なる生分解性速度の向上を行うために、PP結晶構造を単斜晶のα晶が六方晶のβ晶への変換を試みる。β晶のラメラ構造はα晶のものより緩むことが知られている。もし、β晶に変えることができれば、ラメラに酵素等が入りやすくなり、PPの生分解化速度を飛躍的に向上させる事ができると考えている。PPにβ晶を発現させるためには、PP鎖へのグリセリンのラジカルグラフト化が有効である事を現在までに確認している。そこで、架橋と合わせてグリセリンの一部をPP鎖にラジカルグラフト化させ、グラフト化率の最適化を検討し、生分解化速度の向上を行う。昨年年度に引き続き、本年度もコロナ禍のため、出張旅費が余ると考えている。この予算で生分解率測定用のBOD測定器(47.2万円)を買い足す事で生分解測定の増強を図る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、すべての国内学会がキャンセルまたはWeb開催となり、出張旅費300,000円分がすべて余った。加えて、コロナ蔓延防止により、4月と5月の2か月の間、研究室が実質閉鎖となり、その間、実験が行えず物品費として154,230円分が余った。この余剰予算で生分解率測定用のBOD測定器(47.2万円)を買い足す事で生分解測定の増強を図る予定である。
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