令和2年度において、ポリプロピレン(PP)とポリ乳酸(PLA)をヒンダードアミン系光安定剤 (HALS)で生成させたドーマント結合を分解のスイッチとしての機能並びに相溶化剤として利用して、さらにグリセリン添加で親水性を向上させたPP/PLAブレンドで水中での生分解率を約20%まで向上することに成功した。令和3年度では海中でのこのブレンドの生分解性を検討した。その結果、弱アルカリ性の海水中では生分解率は3%まで低下した。原因としてアルカリ性の海水中では中和によりスイッチ機構が働かないためと結論付けた。そこで令和4年度では、代替として海洋性微生物による生分解化の検討を行った。長崎港近海の数か所で海水を採水し、その中に含まれる微細藻を中心として生分解性のスクリーニングを行った結果、珪藻や一部のバクテリアがブレンド中のPP成分を選択的に摂食することを確認した。摂食機構の詳細を解明するために、劣化したPPフィルムに可溶性Siを加え、海水を用いたBOD試験を行った。試験後FT-IR測定では、可溶性Siを加えていないPPフィルムと比較して、Siを加えたフィルムでは、O-H伸縮振動の帰属される強いピークが得られた。SEM観察で珪藻の付着が確認できたことから、珪藻由来のセルロースのピークによることが明らかとなった。また可溶性Siを加えた場合、BODから求めた生分解率は2~3%と低く、加えていない場合と差は無かった。SEM写真上では、PP表面の明確な浸食が観察できることから、PPが完全には代謝されず、珪藻内に低分子化された油分として貯蔵されていると推定した。珪藻はC30程度の油分を体内に貯める特性があることが知られている。現在、この油分貯蔵する特性と関連があると考えており、生分解化よりも付加価値がある油分貯蔵特性を利用したポリオレフィンの新規リサイクルの開発を行うことを計画している。
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