本研究課題では、研究代表者らが構築した二酸化炭素-アミンの反応系に対する量子化学計算モデルをアミンの酸化劣化反応の解析に適用し、二酸化炭素分離回収プロセスで使用するアミンの酸化反応機構を解明し、異なる溶媒等がもたらす反応場効果を検証した。まず、ベンチマークとしてモノエタノールアミン(MEA)を選定し、密度汎関数法によって、酸化劣化の初期過程における反応の解析を実施した。その結果、ケトン生成、エノール生成、エナミン生成、イミン生成等、鍵となる反応の機構を特定するとともに、それらの過程が溶媒の種類にいかに依存するのかを連続誘電体モデル(SMD法)を用いて明らかにした。さらに、対象とするアミン種を今後の実用化が期待されるジアミンやポリエチレンイミン等のポリアミンに拡張した。その内、比較的親水性の低い特定のジアミンにおいて、二酸化炭素との反応性や主な生成物が溶媒によって大きく異なることを、遷移状態を含む反応解析、すなわち固有反応座標計算によって確認した。さらに、当該アミンの酸化劣化を支配し得る反応に関する解析を実施し、ベンチマークアミン、すなわちMEAとの比較を行った。その結果、実用上の課題とされてきたアミンの酸化劣化耐性をアミンの分子構造や用いる溶媒を変えることによって向上できることが示唆され、新たな二酸化炭素分離用の材料設計にあたって有益な知見を蓄積することができた。また、本研究課題によって、二酸化炭素-アミンの反応のみならず、アミンの酸化劣化反応においても、系の比誘電率が反応場を表すパラメータとして有効であることがわかったため、誘電率の実測手法に関する調査、検討を行い、その構築に関しても見通しを得た。
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