研究実績の概要 |
アクリロイルトリエチルシランは、自然重合を起こしてしまうことが判明したため、重合制御の検討を行うことを断念した。 昨年の研究で得られることが判ったメタクリロイルジメチルフェニルシランとスチレンとラジカル共重合体について、29Si NMRスペクトルによって詳細に検討したところ、ブルック転位後のシリルエノールエーテル骨格由来のピークは観測されず、ビニル重合体であると結論付けた。 メタクリロイルジメチルフェニルシランのアニオン重合について、開始剤や溶媒、温度などを変えて詳しく検討した。その結果、モノマー合成の前駆体である1-(ジメチルフェニルシリル)-2-メチル-2-プロペン-1-オールとt-BuOKなどの塩基を組みわせた開始剤をTHF中-20℃で作用させると、モノマー転化率75%で重合が進行し数平均分子量(ポリスチレン換算)1500のオリゴマーが得られることを見出した。この系では、まず開始剤の水酸基が塩基によってアニオンになった後、ブルック転位を起こしてアリルアニオンを生成する。このアニオンは目的の重合反応の成長末端と同じ構造であり、モノマーに1,2付加した後同様の転位反応を引き起こして意図した重合に繋がったと考えられる。開始剤量を減らしてもこれ以上分子量を上げることはできなかったが、1H NMR、29Si NMR、ESI-MS測定により目的の転位を伴った重合が進行していることが分かった。ただし、ビニル重合も同時に起こっており、生成ポリマーに含まれる転位反応由来の構造(シリルエノールエーテル)を持った繰り返し単位は15-30%程度であることが分かった。得られたポリマーに希塩酸を作用させたところ、シリルエノールエーテル構造は対応するケトンに変換されることが観測された。
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