研究課題/領域番号 |
20K05602
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
宮川 淳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60469921)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | βグルカン / グリコシル化 / アニシリデン基 / 開環メタセシス重合 / マルトース / マルトース結合タンパク質 / 水晶振動子マイクロバランス |
研究実績の概要 |
多糖βグルカンは、生物の免疫活性化に関与するタンパク質Dectin-1と結合して活性を発現する。そこで、疑似βグルカンとして、βグルカンの繰り返し単位である分岐鎖を有するオリゴ糖を化学合成し、このオリゴ糖を高分子化して、分子量・糖密度・形態が異なるβグルカンを模倣した高分子を合成する。この合成高分子を用いて、Dectin-1との結合を解析し、免疫活性化に必要な分子構造を明らかにする。 本年度は、以下の点について検討した。 1.分岐鎖をもつ4糖オリゴ糖を合成するために、ベンジリデン保護基およびアニシリデン保護基を用いた糖受容体と糖供与体を用いて、グリコシル化の検討を行った。その結果、グリコシル化条件を決定し、アニシリデン基をもつ糖誘導体を用いてグリコシル化に初めて成功した。さらに選択的にアニシリデン基を脱保護して、分岐鎖を持つ4糖オリゴ糖合成の合成を達成した。 2.疑似βグルカンの合成のために、モデル化合物としてグルコースを有する高分子の合成を行い、開環メタセシス重合を行ったが、溶解性に問題があった。そのため、二糖マルトースをモデル化合物に用いて、再度条件検討を行った。その結果、マルトースモノマーとノルボルネンの比が異なる水溶性高分子を合成することができた。さらに高分子主鎖にある二重結合の修飾方法として、水素添加およびジヒドロキシ化の反応条件を検討して、主鎖の異なる高分子を3種類準備することができた。これらを用いて、マルトース結合タンパク質との結合をQCMで測定を行い、その親和性について評価を行った。その結果、僅かではあるが高分子構造の違いにより親和性に違いが生まれることを明らかにした。 またβグルカン4糖オリゴ糖モノマーを用いて、同様に高分子化を行い、モノマー比率が異なる高分子を得た。先に条件検討を行った高分子の修飾方法を用いて、修飾反応を行い、異なる構造の高分子を合成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度遅れていたが、本年度の研究は順調に進行し、合成方法や評価方法について確立することができた。 ・アニシリデン保護基をもつ糖供与体を用いて、2糖合成のために活性化剤の検討を行い、BSP、Tf2O、TTBPmを用いることでβ選択的に95%の収率で2糖を得ることができた。続いて2糖を糖受容体に変換するために、3位保護基のシリル基を、TBAFを用いて脱保護した。この2糖受容体を用いて、グリコシル化を行い、アニシリデン基が脱離しない条件を検討した。その結果、In(Tf)3, NISまたはBSP, Tf2O, TTBPmを用いたグリコシル化により3糖をβ選択的に53%、70%で得ることができた。さらに3糖のアニシリデン基の選択的脱保護を行い、4糖目の導入箇所を調製した。その水酸基にグリコシル化を行い、目的とするβグルカン4糖オリゴ糖誘導体を得た。 ・βグルカン4糖オリゴ糖を用いた高分子化の前にモデル化合物として2糖マルトースのアグリコンにノルボルネンを導入して、マルトースモノマーを合成した。このモノマーを用いて、ノルボルネンおよび昨年度合成したグルコースモノマーとの共重合を行い、高分子を得た。その後、高分子の主鎖にある二重結合に対して、水素添加反応およびジヒドロキシ化反応を行い、主鎖骨格の構造が異なる高分子に変換した。これら高分子の水溶液中での分子径を動的光散乱計により測定した結果、各骨格により分子径が変化させることができた。これらの高分子を対するマルトース結合タンパク質の結合評価をQCMを用いて行った。その結果、マルトースでは結合が検出でいなかったが、高分子の場合は結合が確認され、結合定数を算出することができた。これらの手法を、βグルカン4糖オリゴ糖を適用して、モノマー合成および高分子合成、高分子修飾を行うこととした。現在、高分子の合成まで完了しており、修飾反応の確認を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き当初研究計画通り、合成したβグルカンを模倣した高分子の修飾を行い、構造解析によって構造の違いを明らかにする。さらにQCMによるDectin-1と高分子の相互作用解析を行うことで、高分子構造の違いによる相互作用への影響を明らかにして、生体内でのβグルカンの相互作用を解明する。その後、免疫細胞を用いて高分子の免疫活性化能の評価として、細胞から放出されたサイトカインの量を定量して比較検討することで、免疫活性化に有効な分子構造を明らかにする。この活性化能とDectin-1との結合能を総合的に解析することにより、免疫活性化に必要な分子構造を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に新型コロナ感染症対策ため、自粛期間があり、その分の研究が遅れ、本年度繰り越した金額が、本年度も残り、差額となったため。次年度は、当初計画していた研究内容をすべて完了するために、予定していた計画の準備を並行して研究を行い、予定通り遂行する。
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