研究課題/領域番号 |
20K05605
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
箕田 雅彦 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (30229786)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | RAFT共重合 / 交互共重合体 / ポストクリック反応 / グリコサミノグリカン / コンドロイチン硫酸ミミック / ヒアルロン酸ミミック / 交互配列グライコポリマー / 細胞毒性評価 |
研究実績の概要 |
ビニルエーテル(VE)とマレイミド(MI)との交互配列骨格構造からなるグライコポリマーを合成するために昨年度開発した合成手法に基づき、多様な構造からなる交互配列グライコポリマーの精密合成を行った。合成戦略は、無保護アルキン担持VEあるいはスチレン(St)とTMS保護アルキン担持MIから前駆体のアルキン担持交互共重合体を合成し、続いて2種のアジ化糖との段階的ポストクリック反応により交互配列グライコポリマーを得る独自の手法に基づく。 本年度はまず、本法により、StとMIの交互配列骨格構造を有する、コンドロイチン硫酸Cミミックとなる交互配列グライコポリマーの合成を行った。ジチオベンゾエート系連鎖移動剤を用いるアルキン担持StとTMS保護アルキン担持MIとのRAFT共重合により前駆体のアルキン担持共重合体を得た。生成物は組成比がほぼSt/MI = 50/50であることから、高い交互配列構造を有すると考えられる。次いで、6位硫酸化アジ化糖をStユニットの側鎖アルキンとクリック反応させて硫酸化糖を導入し、次いでMI側鎖のTMS脱保護と続くグルクロン酸アジドとのクリック反応により、St/MI交互配列構造のコンドロイチン硫酸Cミミックポリマーの合成に成功した。また、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)のアジド化物を合成した。同様の合成戦略を用いて、VE/MIの交互配列骨格構造を持つ、アルキン担持前駆体ポリマーを合成し、段階的ポストクリック反応により側鎖にGlcNAcとグルクロン酸を交互に導入したヒアルロン酸ミミックの合成にも成功した。 さらに、昨年度に合成したVE/MI交互配列骨格構造のコンドロイチン硫酸Cミミック型グライコポリマーを試料として、NIH3T3 cell (マウス胎児線維芽細胞)を用いた細胞毒性評価を行い、0.1 mg/mL以下の濃度では細胞毒性を示さないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、天然生理活性多糖であるグリコサミノグリカン(GAG)のミミックとなる交互配列グライコポリマーの精密合成法の開拓と機能評価を行う。電子豊富な二重結合を持つビニルエーテル(VE)またはスチレン(St)類と電子不足性のマレイミド(MI)類とのRAFT交互ラジカル共重合を基盤技術とするが、糖担持モノマーの直接交互共重合ではスルホ基やカルボキシル基などの官能基を持つGAGミミックポリマーを合成するのは困難なため、本研究では新規合成戦略として、無保護アルキン担持VE(またはSt)とTMS保護アルキン担持MIから前駆体交互共重合体を合成した後、2種のアジ化糖との段階的ポストクリック反応で交互配列グライコポリマーを得る独自の合成方法を確立した。本合成手法の有用性と汎用性を検証するために、新規GAGミミックとして、St/MI交互配列骨格構造を持つコンドロイチン硫酸Cミミックポリマー、ならびにVE/MI交互配列骨格構造を持つヒアルロン酸ミミックポリマーの精密合成に着手し、スルホ基やカルボキシル基を持つ2種の単糖残基が、非常に高い導入率で交互に側鎖導入されたグライコポリマーを合成することに成功した。これらの成果は、開発した交互配列グライコポリマーの合成法の優秀性と応用性の高さを示しており、当初計画通りの進展を得た。主鎖骨格構造の違いは、交互配列グライコポリマーのコンホメーションの違いを誘起する可能性があり、今後の検討課題である生理活性機能の発現における重要な機能発現因子にもなりうる。さらに本年度は、既に合成したVE/MI交互配列骨格のコンドロイチン硫酸Cミミック型グライコポリマーの細胞毒性評価を行い、所定濃度以下では細胞毒性を示さないことを明らかにしたので、本研究のグライコポリマーのバイオマテリアルとしての有用性を予備的に検証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これ迄の研究で、本研究で独自開発した、アルキン担持モノマーどうしのRAFT交互共重合と2種のアジ化糖との段階的ポストクリック反応を融合した交互配列グライコポリマーの合成法の有用性と優秀性を検証することができた。この成果を踏まえて、最終年度に向けて推進すべき研究方策として以下を設定した。研究計画(1)では、硫酸化糖を側鎖に持つGAGミミック型交互配列グライコポリマーの精密合成をさらに展開する。具体的には、4位、6位がスルホ化されたGlcNAc残基を担持したコンドロイチン硫酸Eのミミックポリマー、ならびに3位、4位、6位がスルホ化されたGlcNAcを持つ非天然型のGAGミミック型交互配列グライコポリマーを合成する。さらに、アルキン担持モノマーの選択により、主鎖骨格の交互配列ユニットが異なるVE/MI系統のグライコポリマーとSt/MI系統のグライコポリマーを共に合成する。研究計画(2)では、交互配列グライコポリマーをバイオ分子認識へのセンサー材料などとして社会実装することを念頭に置いて、RAFT重合の連鎖移動剤残基が結合したグライコポリマーのω末端のSH基への変換や、重合性官能基への変換によるマクロモノマー化を行い、前者では金基板や金コロイドへの固定化を、後者ではコア-シェル型微粒子やポリマーブラシなど高密度多分岐構造の構築について検討する。研究計画(3)では、本研究で系統的に合成したGAGミミック型交互配列グライコポリマーの細胞毒性評価を継続して行うと共に、生理活性機能の一つとして、アルツハイマー病の原因物質とされているアミロイドβタンパク質の凝集抑止効果の評価についても予備的に検討する。硫酸基の置換位置や置換数の違い、ならびに主鎖構造が(VE/MI)nであるか(St/MI)nであるかによる分子鎖の柔軟性やコンホメーションの違いが機能発現に及ぼす影響について調査する。
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