研究課題/領域番号 |
20K05606
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
淺原 時泰 大阪大学, 薬学研究科, 准教授 (20632318)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポリ乳酸 / 表面改質 / 二酸化塩素 / 光反応 / 細胞親和性 |
研究実績の概要 |
PLA樹脂の酸化度制御:前年度までに、PLAのフィルムに対し光活性化二酸化塩素改質処理を行い、①改質PLAの作製、②トルイジンブルー染色法による導入カルボキシ基の定量、③酸化条件に応じた酸化度制御をすでに達成している。 この結果を受けて、本年度は3Dプリンタを用いて作製した多孔質の3次元構造体への酸化処理と、トルイジンブルー染色による酸化度評価を行った。その結果、構造体の内部まで染色され、酸化が進行していることが明らかになった。構造体内部まで処理が可能であることから、細胞足場材料としての応用への期待が高まったと言える。 細胞接着性評価:フィルム状の二酸化塩素光酸化改質PLA材料を用いた細胞培養を検討した。マウス線維芽細胞を用いて、細胞播種から一定時間後の細胞を化学固定化し位相差顕微鏡を用いた観察により細胞数をカウントした。また、生細胞数測定試薬WST-8を用いた細胞数測定も併せて行った。何れの結果からも未処理品と比較して、二酸化塩素光酸化改質処理を行ったサンプルにおいて細胞数が優位に増加し、一般的な表面処理であるプラズマ処理品と同程度まで細胞接着性が向上した。ガス状の二酸化塩素を用いた改質においても細胞接着性の向上が見られたことから、複雑な形状を有する構造体においても適用可能と考えられる。 分解性評価:60℃に加熱した重水中での粉体PLAの分解性をNMRから評価した。加水分解により生成した乳酸のシグナルを追跡したところ、酸化サンプルにおいて分解速度の向上が見られた。一方で、酸化度と分解速度との相関がみられなかったことから更なる検討が必要と考えられる。また、フィルム状PLAの分解試験も行う必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの二年間の取り組みでは、当初の予定通りの結果が得られつつあり、二酸化塩素光酸化処理によるPLAの表面改質が達成され、その酸化度の制御までの道筋を示すことが出来ている。さらに、三次元構造体の内部まで酸化処理が可能であることは特筆すべき結果と言える。 また、細胞親和性についても種々の接着試験から優位に向上していることが明らかになり、細胞足場材料としての応用可能性が高まったと言える。直接の細胞親和性向上だけでなく、酸化改質処理を基盤とした表面修飾によるさらなる機能化も可能である。また、PLAにおいて酸化技術および細胞親和性向上の可能性が示されたことから、他の生分解性樹脂や、汎用樹脂などへの用途の拡大という点も期待される。実際に複雑形状への処理のモデル系としてPP不織布への酸化処理が可能であることも別途明らかにした。 これらの成果について学会発表などを行うと共に、情報収集を行うことで、具体的な用途の選定も見えてきている。
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今後の研究の推進方策 |
3Dプリンターで作製したマクロな三次元構造体に対して、二酸化塩素光酸化処理を行い、細胞接着性評価を行う。培養後に構造体断面を分析することで、内部における細胞親和性の評価も行う。また、PLAの形状が細胞の分化、安定性に与える影響について検討することを目的として、複雑形状モデルで市販の入手容易な微細繊維からなる不織布や、多孔性モノリスを用いて、それぞれ本光活性化二酸化塩素改質処理を行い、細胞親和性を評価する。 これらの構造体においては、幹細胞を用いた細胞分化についても検討を行う。直接的な細胞接着において有意な効果が見られなかった場合、細胞外マトリックスであるコラーゲンやフィブロネクチンを積極的に改質PLA表面に導入する。これらの成分の導入は細胞親和性の改善に有効であることが知られているが、その導入法としても本法は適用可能であると考えられる。さらに、RGBペプチドの導入など、細胞接着に有利な表面修飾の検討もおこなう。 また、酸化処理を行ったPLAサンプルの生分解性評価も継続して行う。とくに酸化度との相関について明らかにする。一方で、加水分解性評価において未処理品との有意差が見られていることから、より生体応用を企図した分解性評価試験としてバッファー中での分解試験も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞の納品に遅れが生じたため。次年度すぐに発注、使用予定である。また、出張などが無くなり旅費が大きく減額となったため。次年度には成果報告のための出張が増えると考えられることから、これらの残額を有効活用する。
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