研究課題/領域番号 |
20K05607
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
鈴木 登代子 神戸大学, 工学研究科, 助教 (40314504)
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研究分担者 |
南 秀人 神戸大学, 工学研究科, 教授 (20283872)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | セルロース / カプセル / 微細構造 |
研究実績の概要 |
本研究では,一つのカプセル材で水溶性/油溶性物質どちらも内包可能な新規なカプセル材料の創出を目的に,セルロース粒子に特に中空構造の導入を目指している。初年度は,特に中空構造を有するセルロース粒子の作製法の確立を目指した。2年度である今年度は,微細構造をカプセル壁に有したセルロース中空粒子作製に取り組み,セルロースの析出挙動について検討を行った。 1. セルロースの析出挙動:ILとDMFからなるセルロース懸濁滴(媒体はヘキサン)を用いて,すべての溶剤を混和する1-ブタノールと,ILだけはほとんど溶解しないアセトンをセルロース析出溶媒として用いた。ILとDMFがそれらと混和すると同時に,セルロースが析出し微細構造を形成する。これまで電子顕微鏡にて観察してきたセルロース粒子は,表面に膜を張っていたが,薄膜形成がセルロース析出時なのか,乾燥時なのかはっきりしていなかった。本検討により,膜形成が析出時であることが明らかとなった。 2. セルロースの化学修飾(フッ素成分の導入):無水メタクリル酸と多孔質セルロース粒子のヒドロキシ基を反応させることで、メタクリロイル基が導入されたセルロース粒子を作製し,次に含フッ素チオールとのチオール・エン反応を実施し、フッ素化セルロース粒子を作製した。FT-IR やEDXを用いて,メタクリロイル基やフッ素基の導入を確認した。また,2段階の修飾反応過程での微細構造の消失を懸念したが,凍結乾燥後の未修飾の微細セルロース粒子の比表面積は140 m2/g程度であったのに対し,同程度を維持していた。微細構造は乾燥にて簡単に破壊され緻密粒子となるが,興味深いことに,フッ素化セルロース粒子は自然乾燥においても100m2/g程度の高い比表面積を保持していた。接触角測定でも強い疎水性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,微細構造セルロースからなるシェル壁を有するカプセル作製を目的としている。セルロース中空粒子の作製は,イオン液体と析出媒体との親和性と放出挙動の関係性が鍵であり,適切なILを用いることにより,中空セルロース粒子を作製できることが初年度に明らかとなった。しかしながら,電子顕微鏡で確認する限り,シェル壁の微細構造が壊れており,微細構造を残存させることが課題である。この微細構造の破壊がなぜ起こるのか,改めて,セルロースの析出挙動を詳細に観察することが必要である。また,これまで電子顕微鏡にて観察してきたセルロース粒子は,表面に膜を張っていたが,薄膜形成がセルロース析出時なのか,乾燥時なのかはっきりしていなかった。本検討により,膜形成が析出時であることが明らかとなった。新たな問題点であるため,この点に関しては,次年度に集中的に検討を行う。微細構造の保持に関しては,多くの課題が残った。 一方で,セルロースの化学修飾(フッ素成分の導入)については,無水メタクリル酸と多孔質セルロース粒子のヒドロキシ基を反応させることで、メタクリロイル基が導入されたセルロース粒子を作製し,次に含フッ素チオールとのチオール・エン反応を実施し、フッ素化セルロース粒子を作製した。FT-IRを用いて,メタクリロイル基の導入が確認され,フッ素成分の導入にも,研究実績項に記載した様に成功した。この結果から,様々なチオールを用いての化学修飾が可能であることを示せた。本件等項目は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,セルロース粒子に中空構造と微細構造の導入に取り組む。セルロースの析出挙動について特に焦点をあて,析出条件(イオン液体の種類や量,温度)の検討を行う。微細構造を保持したカプセルシェル壁の形成は,内包物可能物の選定に大きな影響を及ぼすため,本研究では欠かせない検討である。 また,フッ化セルロース粒子の微細構造保持性に着目し,単中空構造のカプセルだけでなく,多孔性カプセルへの応用を検討する。これまで当研究グループで作成してきた微細構造セルロース粒子は,凍結乾燥や超臨界二酸化炭素乾燥を行えば微細構造を維持したが,自然乾燥ではセルロース分子同士の分子間力の強さに負け緻密粒子化した。フッ素官能基の導入は,その分子間力に打ち勝ち,微細構造を保持した。また,多種類のチオール,例えば,長鎖アルキル鎖のチオールなどを用いて,さらなる官能基側鎖の導入に関する検討を行う。これらの検討に関して得られた知見を,セルロースカプセル粒子に適用していく。これらは,セルロースカプセルの微細構造の保持(=徐放能力の制御)に繋がることを期待している。 さらに,本年度に明らかになった,セルロース析出時の粒子表面への薄膜形成について,種々の界面活性を用いて,析出時の界面へのセルロース分子の吸着を抑制できないか検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本実験で使用する電子顕微鏡が不調となり,修理を要したことが,遅れのひとつである。また,雇用予定であった学生研究補助員の雇用が,コロナ禍の学生入構制限とかなさったことも大きい。ただ,これらは本年度には改善される見込みである。
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