研究課題/領域番号 |
20K05608
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
織田 ゆか里 九州大学, 工学研究院, 助教 (20625595)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高分子 / 吸着 / 孤立鎖 / 形態 / 界面 / 原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
異種固体界面における高分子鎖の凝集状態と熱運動性については、未だ不明な点が多く、その統一的な理解に至っていない。本研究課題の目的は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた異種固体界面における分子鎖の直接観察に基づき、界面分子鎖ダイナミクスを解明し、その制御因子を系統的に検討することである。本年度は、まず、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の希薄溶液をマイカ基板上にスピンコートし、吸着した孤立分子鎖の形態をAFM観察に基づき評価した。装置内で試料を昇温・降温させ、温度変化に伴う同一分子鎖の形態変化を評価した。その結果、温度上昇に伴い、分子鎖の基板からの高さと幅は減少し、よりシャープに観察されるようになったことから、非平衡性の高い状態で凍結された吸着鎖のループ構造が基板との吸着点を増やすようにトレイン構造へと変化したことを明らかとした。一方、温度上昇に伴いシャープに見えるようになった鎖を再度低温で観察すると、シャープさはわずかに減少したことから、基板表面における吸着水の蒸発の影響も反映されていることが示唆された。また、ループ構造からトレイン構造へのコンフォメーション変化に伴い、高温における孤立分子鎖の運動性が抑制されることも明らかとなった。この温度上昇に伴う吸着鎖の局所コンフォメーション変化に関する考察は、全原子分子動力学シミュレーションによっても支持された。得られた成果は、固体界面に存在する高分子鎖の凝集状態と熱運動性の理解において有用な知見を与えることから、新しい高分子/異種材料間の接着技術・複合材料の開発への展開が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、以下のことを3年間で行うことを計画していた。 1)無機固体界面における分子鎖のコンフォメーションと緩和挙動の解明 2)高分子の一次構造が界面分子鎖のダイナミクスに及ぼす影響の解明 3)分子鎖ダイナミクスの制御された界面(吸着)層の構築と高分子材料の新設計 1年目となる令和2年度は、1)について、マイカ基板に吸着したポリメタクリル酸メチル(PMMA)の鎖コンフォメーションとその緩和挙動の評価に取り組んだ。その結果、非平衡性の高い状態で凍結されたPMMA吸着鎖のループ構造は、温度上昇に伴い基板との吸着点を増やすようにトレイン構造へと変化することを明らかとした。一方、高温においても分子鎖の重心移動は起こらず、吸着鎖のコンフォメーション変化に伴い、分子運動は抑制されることが示唆された。原子間力顕微鏡(AFM)観察に基づく孤立分子鎖の直接観察に基づき、その局所コンフォメーションの温度依存性の評価に成功したことは、初年度の大きな成果である。さらに、2)について、分子量の異なるPMMA鎖を同様にマイカ表面に吸着させ、その形態観察を行った。その結果、いずれの分子量においても、PMMAのcontour長は分子量から推定される鎖長と比較して小さく、その程度は分子量に依存しなかった。このことから、非平衡性の高い状態で吸着したPMMA鎖には、分子量に依らず、ループ構造が多く存在することが示唆された。 以上のことから、本研究課題において、有用な知見が徐々に得られつつあると考えている。したがって、当初の計画通り、概ね進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、モデル高分子として汎用高分子の一つであるポリメタクリル酸メチル(PMMA)に着目し、その異種固体界面における吸着形態や分子鎖ダイナミクスを原子間力顕微鏡(AFM)観察に基づき検討してきた。AFM観察に基づく孤立分子鎖の直接観察に基づき、その局所コンフォメーションの温度依存性の評価に成功したことは、初年度の大きな成果である。 今後は、この初年度の成果を活用し、高分子/異種材料間の新規接着技術の開発に資する知見を得ることや新たな高分子材料の設計と創製を目指すことも見据え、実際に接着剤に使用される高分子の異種固体界面における吸着形態や分子鎖ダイナミクスの解明を行う。さらに、その界面分子鎖ダイナミクスにおける高分子の一次構造の影響を評価する。吸着高分子の形態ならびにダイナミクスをAFM観察に基づき系統的に評価することで、界面における分子鎖ダイナミクスの制御因子について議論する。AFM観察だけでは議論が難しい数モノマー単位でのコンフォメーション変化については、適宜、全原子分子動力学シミュレーションと連携することで、相補的に議論を進める。得られる知見を総括し、界面における分子鎖ダイナミクスを積極的に制御するための界面設計を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度中、出産・育児に伴う休業のため、研究代表者が一時的に研究活動を中断したため、予定していた研究費を全て使用せず、繰越しを行った。 翌年度分として請求した助成金は、研究遂行に必要な消耗品購入のため、物品費として使用したいと考えている。
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