本研究課題では、異種固体界面における高分子鎖のダイナミクスの解明と、その制御因子の検討、さらには、得られた知見を総括することで、分子鎖ダイナミクスの制御された界面層の構築と高分子材料の設計を目指した。これまでに、基板上に吸着したポリメタクリル酸メチル(PMMA)一分子鎖の形態が、温度上昇に伴い、ループからトレインへと基板との吸着点を増やすように変化することを明らかとした。令和4年度の成果は以下の通りである。 種々の濃度のPMMA溶液を基板上にスピンコートすることで得られた様々な表面密度のPMMA吸着表面を製膜過程のモデルとみなし、その原子間力顕微鏡(AFM)像について考察を行った。その結果、製膜過程において、ループ構造を有する初期吸着鎖が存在することで、別の鎖がこれに拘束され複数鎖から成るドメインが形成されること、溶液濃度が増加するとドメインが発達し、基板表面の空隙を埋めるようにネットワーク構造が発達し、最終的には層、あるいは超薄膜が形成されることが明らかとなった。これは近年提唱されている溶液からのデオキシリボ核酸(DNA)の溶液から固体表面の吸着機構と良い一致を示した。 また、界面における吸着鎖形態ならびにダイナミクスは、水の収着挙動にも影響するのではないかと考え、PMMAの一次構造、特に分子量、とPMMA膜における膨潤ダイナミクスとの相関を検討した。具体的には、高分子量体のPMMAホモ膜と、これにわずかに低分子量体のPMMAを混合したブレンド膜を調製し、それぞれの水収着挙動を光学反射測定に基づき時分割評価した。その結果、ホモ膜とブレンド膜の水収着挙動は異なることが分かってきた。ブレンド膜の表面近傍には低分子量が濃縮すると考えられることから、界面近傍における鎖の形態エントロピーの効果で膜の膨潤挙動を制御できる可能性があり、現在さらに検討を進めている。
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