研究実績の概要 |
本研究では、室温大気下で安定な局在型スピン中心をもつπ共役系ポリマーをモデル系として、共役骨格の酸化または還元によりポーラロンなどのスピンをもつキャリアを発生させ、ポーラオンを介したスピン伝達の可能性について合成化学的に検証することを目的とした。 令和4年度には、ジアザTMIO骨格を縮環導入したチオフェンモノマーのチオフェン環2,5-位に末端基の異なるπ共役骨格を導入し、カチオンラジカル種の安定性に及ぼす影響を検討した。具体的には、tert-ブチルオフェンを導入した1、tert-ブチルビチオフェンを導入した2、4-トリル基を導入した3,およびフェニル基を導入したEDOTを導入した4を新規に合成し、電気化学的性質、分光学的性質を明らかにした。 MagicBlueを1当量添加すると、分子内電荷移動吸収が観測された。単離した4のカチオンラジカル種のESRでは三重線が観測され、酸化前の4のスペクトルと比較し、酸化によるカチオンラジカル種の生成およびオリゴチオフェン部位のカチオンラジカル種とニトロキシドの間でのスピン交換が示唆された。しかしながら、SQUID磁気測定より試料中のスピン発生量に減少が見られ、主鎖上に発生したラジカル種は消失し、TMIO由来のスピンのみが観測されていることが示唆された。 DFT 計算(UB3LYP/6-31G(d))を用いて、4のカチオンラジカル種ではピロリンオキシルとカチオンラジカル間には2J = +12.5 cm-1 程度の強磁性的相互作用が認められ、反強磁性的なTMIO-BT とは異なった。ピラジン環上におけるSOMOがニトロキシドと直交しているためと推察した。 以上、溶液中では共役主鎖上のポーラロンを安定に保持できることを確認したが、凝集過程で、ポーラロンのスピン中心が非磁性化していることを確認した。
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