研究実績の概要 |
令和2年度の研究計画に従い、①アクリル樹脂と3-メトキシチオフェン重合体のブレンド膜作製において、アクリル樹脂の分子量を2,000から996,000まで変え、得られたブレンド膜の光学物性を測定する、および②水溶性チオフェン重合体の合成条件を変え、塗布膜の光学物性との相関を調べる検討を行った。項目①においては、いずれの塗布膜とも表面が黒色光沢色、裏面(ガラス基板と接する面)が金色調光沢色となった。測色の結果、表面はa*,b*色度図においてその色座標はほぼ原点に位置し、可視光全波長域において正反射を示し、黒色光沢となることを確認した。項目②においては、チオフェン重合体の重合酸化剤に塩化鉄(Ⅲ)無水和物および塩化鉄(Ⅲ)六水和物を用いたところ、前者では正反射率28%を示すCl-イオンがドーピングされた金色調光沢膜が得られ、後者では正反射率40%を示すCl-およびFeCl4-イオンがドーピングされたブロンズ調光沢膜が得られた。そして、その機構の検討を行った結果、前者の膜は、後者の膜に比べて金属調発現構造であるエッジオンラメラ微結晶の量が少ないために反射率が相対的に低く、ラメラ層間距離が広いことに起因して金色調発現に都合がよい光学定数スペクトルをもつことが判明した。一方、後者の膜は結晶量が多いことに起因して反射率が高く、またラメラ相関距離が狭いことに起因して光学定数スペクトルがブロンズ発現に都合がよいスペクトル形をもつことが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の研究計画研究項目①(アクリル樹脂とチオフェン重合体において、アクリル樹脂の分子量条件を変え、塗布膜の光学物性との相関を調べる項目)については、アクリル樹脂の分子量を2,000, 15,000, 35,000, 350,000および996,000と変えてチオフェン重合体とのブレンド膜を作成し、予定通り膜表面が黒色、裏面が鮮やかな金色調光沢色となるサンプルを作成できた。そして、計画通り、それらサンプルの測色と反射率のデータを取得した。すなわち、令和3年度以降に実施予定の膜の構造・形態解析に対する準備を整えることができた。 令和2年度の研究計画研究項目②(水溶性チオフェン重合体の合成条件を変え、塗布膜の光学物性との相関を調べる)については、異なる2種の酸化剤を用いて合成した2種の水溶性チオフェン重合体は、金色調とブロンズ調の色度をもつ塗布膜を与えた。そして、その重合体の詳細な物性測定を行い、論文報告を行った。その結果、論文掲載元の米国化学会からニュースリリースされるとともに国外10のメディアに紹介された。さらにその続編として、当初の計画通り、酸化剤滴下時間を変えて、重合体の合成を行った。その結果、重合体塗布膜の色を金色調からブロンズ調まで変えることができる実験結果が得られた。次いで、重合体塗布膜の光学物性特性(測色および反射率の測定)を測定し、令和3年度以降に実施予定の膜の構造・形態解析に対する準備を整えることができた。
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