本研究はネットワーク状動的相関領域(DCN)という考えに基づいて、過冷却液体のガラス転移現象のメカニズムの解明を行い、それをベースとしてさらに高分子超薄膜の動的物性と熱物性のメカニズム解明を目指すものである。 まず、DCNモデルの基本構築を行った。最大配位数6の動的結合が可能なセグメントを単純立方格子上に配置し、Monte Carloシミュレーションによりネットワークを発生させ、得られた動的ネットワークの平均サイズ、および形状を詳細に解析した。まず、ネットワークサイズが発散するパーコレーション温度が存在することがわかった。この温度は熱力学的な理想ガラス転移温度に対応することが示唆された。得られた緩和時間の温度プロファイルにより、トルエンなどの分子性過冷却液体や高分子を含む広汎な材料について、緩和時間の温度依存性データを定量的に説明できることがわかった。その中で、ポリスチレンセグメントの動的結合エネルギーはトルエンのそれよりも大きく、高分子としての特徴を反映することがわかった。さらに、ダイナミックスのエネルギー障壁がDCNのフラクタル次元の逆数でスケーリングされることがわかった。 次に、単純立方格子に自由表面を導入することにより、DCNモデルの自立高分子超薄膜への拡張を行った。DCNのサイズや形状の膜厚依存性を詳細に計算し、それらの温度依存性を明らかにした。さらにポリスチレン超薄膜について緩和時間、およびガラス転移温度の膜厚依存性を評価し、その結果を実験データと比較したところ、定性的に一致することがわかった。 上記と並行して、チップカロリメトリによりいくつかの高分子超薄膜のダイナミックスの測定を行い、上記の計算結果との比較を行った。さらに、同じ手法でガラス転移温度以上での吸着過程を測定することにより界面効果の評価を行った。
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