研究課題/領域番号 |
20K05616
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
奥崎 秀典 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (60273033)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フレキシブルセンサ / ソフト電極 / 導電性高分子 / イオン液体 / 無電源 |
研究実績の概要 |
重合温度によるPEDOTの構造変化を検討するため、ラマンスペクトルを測定した。1420および1520 cm-1にそれぞれチオフェン環のC=C二重結合の対称および非対称伸縮、1370 cm-1にチオフェン環のC-C単結合伸縮に対応するピークがみられ、PEDOTのベンゾイド構造に帰属される。一方、1260 cm-1のピークはエチレンジオキシ環のCH2ねじれ振動に対応する。すなわち、1260 cm-1に対する1420 cm-1のピーク強度比はベンゾイド構造の割合を表す指標になる。興味深いことに、重合度は重合温度の上昇とともに低下し、PEDOTは16~19量体であることがわかった。また、結晶化度は重合温度の上昇とともに低下することがわかった。これは、重合度の増加とともにPEDOT間の相互作用が増し、よりπスタッキングしやすくなったためと考えられる。さらに、導電性AFMを用いて電流像を測定した。ナノ結晶サイズは5 nm程度で、結晶子サイズとほぼ一致した。興味深いことに、ナノ結晶サイズは重合温度に依存せず、ナノ結晶数のみ重合温度の低下とともに単調に増加することがわかった。ここで、バルクの電気伝導度を支配しているのは、ナノ結晶間のキャリアホッピングであるため、ナノ結晶間距離が重要と考えられる。実際、ナノ結晶間距離の減少とともに電気伝導度が上昇し、重合温度0℃で最高1257 S/cmに達することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究ではPEDOTの二次構造である分子量に着目した。具体的には、重合温度を最適化することで、PEDOTの高分子量化を試みた。ラマンスペクトルにおけるピーク強度比から、従来困難であったPEDOTの重合度を見積もることに成功した。さらに、重合度の上昇とともに結晶化度やナノ結晶指数も増加することがわかり、ナノ結晶間距離が短くなることによって、バルクの電気伝導度が向上するメカニズムを解明した。重合温度0℃で合成したPEDOT:PSSの電気伝導度は1257 S/cmに達し、従来報告されてきた市販のPEDOT:PSS(Clevios PH1000, Heraeus, 1000 S/cm)よりも高いことから、世界で最も高い電気伝導度を有するPEDOT:PSSの合成に成功した。得られたPEDOT:PSSは、多機能センサにも十分使用可能と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では様々なエラストマーとイオン液体のスクリーニングを行う。具体的には、エラストマーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、アクリルゴム(ACM)、天然ゴム(NR)を用いる。一方、イオン液体についても、カチオンとアニオンの異なる組み合わせを試すことで、エラストマーとの親和性を総合的に評価する。具体的には、アニオンを[TFSI]に固定し、アルキル鎖長の異なるピリジニウム塩である[EMI][TFSI]、[BMI][TFSI]、[HMI][TFSI]、[MOI][TFSI]を比較することで、カチオンの疎水性や嵩高さとエラストマーとの相溶性について明らかにする。さらに、カチオンを[EMI]に固定し、アニオンの異なる[EMI][TFSI]、[EMI][BF4]、[EMI][DC]、[EMI][MS]、[EMI][SCN]、[EMI][TFS]を検討することで、アニオンとエラストマーの相互作用に関する知見を得る。フレキシブルピエゾイオンセンサの駆動は、エラストマー内におけるイオン液体の移動に基づくため、イオン伝導度を高めることが不可欠である。そこで、エラストマーとイオン液体の組み合わせを変えたイオンゲルを作製し、イオン液体濃度を変化させたときのイオン伝導度および静電容量を交流インピーダンス法により測定する。一方、イオンゲルの力学特性は既設の引張試験機および動的粘弾性測定装置を用いて評価する。応力歪曲線からヤング率、切断強度、切断伸度を算出する。さらに、動的粘弾性測定から貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接の温度依存性を調べ、高分子鎖の運動性や緩和過程などに関する情報を得る。
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