研究課題/領域番号 |
20K05616
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
奥崎 秀典 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (60273033)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フレキシブルセンサ / ソフト電極 / 導電性高分子 / イオン液体 / 無電源 |
研究実績の概要 |
様々なエラストマーとイオン液体(IL)のスクリーニングを行った結果、熱可塑性ポリウレタン(PU)とアニオンにTFSIを有する4種類のイオン液体(EMI-TFSI、BMI-TFSI、HMI-TFSI、MOI-TFSI)がジメチルアセトアミドに可溶であり、均一なゲルが得られることがわかった。特に、EMI-TFSIはPUと高い親和性を示し、ILを含まないPUと外観はほとんど変わらず、優れたエラストマー特性を保持していることが明らかになった。IL:PUゲルの力学特性はIL濃度に大きく依存し、ヤング率は11 MPa(IL濃度0 wt%)から0.54 MPa(70 wt%)、切断強度は60 MPa(0 wt%)から1.6 MPa(70 wt%)へと大きく低下した。これは、ILがPUの可塑剤として作用するとともに、PUのネットワーク密度が低下したためと考えられる。興味深いことに、ILを70 wt%含むにもかかわらず、PUエラストマーと同等の高い切断伸度(約600%)を示すことが明らかになった。交流インピーダンス測定から求めたイオン伝導率はIL濃度の上昇とともに増加し、70 wt%で約0.1 mS/cmの高いイオン伝導度を示すことがわかった。さらに、IL:PUゲル上に導電性高分子であるPEDOT:PSSとポリグリセリン(PG)を混合した伸縮性電極(PEDOT:PSS-PG)をスプレー塗布したIL:PU/PEDOT:PSS-PG複合体を作製した。電極の膜厚はスプレー時間に比例して増加し、製膜速度は約200 nm/minであった。抵抗ひずみ曲線は電極膜厚に依存し、約1μmのPEDOT:PSS-PG膜厚において、断線ひずみは170%に達した。得られた実験結果から、高いイオン伝導性と電気伝導性、伸縮性をあわせ持つIL:PU/PEDOT:PSS-PG複合体の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、イオン液体とエラストマーのスクリーニングを行い、力学特性とイオン伝導性に優れたIL-PUゲルの開発に成功した。また、高導電性PEDOT:PSSを活用した電極の開発についても検討し、高い電気伝導性と優れた伸縮性を併せ持つ新規電極材料の開発にも目途がついた。このように、本研究の目的であるフレキシブルセンサを構成する二つの重要要素の研究開発がすでに済んでおり、2年目終了時におけるハードルをすでにクリアしている。さらに、次年度予定の多機能型フレキシブル無電源センサの開発に向けた取り組みを一部前倒しで開始している。具体的には、IL-PUゲル上にPEDOT:PSS-PG電極をスプレー塗布した複合体を作製し、電気力学特性を評価した。興味深いことに、PEDOT:PSS-PG電極の最適膜厚が約1 μmであることを見出し、170%まで伸長しても使用可能なIL-PU/PEDOT:PSS-PG複合体の開発に成功している。次年度は、この複合体のセンサ特性評価に専念できることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた知見をもとに、IL-PUゲルをPEDOT:PSS電極で挟んだ三層構造からなる多機能型フレキシブル無電源センサを作製する。センサ特性は、力学試験機と高速アナログ計測ユニット、加速度計測ユニット、データロガーを組み合わせた装置を用いて評価する。加速度センサの評価は、様々な加速度でセンサを屈曲させたときの発生電荷を加速度計測ユニットで読み取り、その勾配から加速度センサ感度を算出する。一方、変位センサの評価は様々な変位でセンサを屈曲させたときの発生電位を高速アナログ計測ユニットで測定し、その勾配から変位センサ感度を評価する。また、センサ応答の経時変化や耐久性を評価することで、素子の安定性や再現性、信頼性、劣化機構等に関する知見を得る。さらに、センサ特性におけるイオン液体の濃度と分子構造の関係を詳細に調べることで、ピエゾイオン効果のメカニズムを分子レベルで解明する。
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