本課題は、ブラシ状に集積したオリゴDNA鎖(以下、DNAブラシ)において明らかにされたDNA二重鎖間の末端構造選択的なスタッキング促進現象に基づき、サンプルDNA鎖末端のリン酸化状態に応じて明瞭な色変化を示すリン酸化プローブの新原理を確立することを目的としている。最終年度となるR5年度は、平滑構造のDNA二重鎖末端間に生じるスタッキング促進現象が末端リン酸基によって抑制される、というこれまでの検討から得られた知見をもとに、これを動作原理とする発色型リン酸化プローブのプロトタイプを作成し、その動作を検証した。具体的なプローブ材料として、平均粒経が15ナノメートルの金コロイドの表面に、一本鎖オリゴDNA(プローブDNA)をブラシ状に化学固定した、ssDNA-AuNPs分散液を採用した。この分散液は、分散状態の金ナノ粒子に起因する表面プラズモン共鳴により520nm付近に吸収極大をもつ赤色を呈する。この分散液に、プローブDNAと相補的な塩基配列をもつサンプルDNAを添加して二重鎖形成させ、段階的に塩濃度を上昇させると、特定の塩濃度(臨界塩濃度: C1)以上で金コロイド表面のDNA二重鎖末端間のスタッキングが促進されて粒子が凝集し、分散液は赤色から紫色に変化した。一方、サンプルDNAの片末端にリン酸基が付与された場合、分散液の色が変化する臨界塩濃度(C2)が有意に上昇した。この結果は、二重鎖末端のリン酸基が末端間スタッキングを抑制するという従来の知見と矛盾しない。以上の結果を踏まえ、ssDNA-AuNPs分散液の塩濃度Cを、C1<C<C2となるように設定することで、サンプルDNA末端のリン酸化状態に応じて明瞭な色変化を示す(リン酸化あり:赤色、リン酸化なし:紫色)、発色型DNAリン酸化プローブとして機能することが確認できた。
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