研究課題/領域番号 |
20K05621
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
伊藤 大道 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 講師 (40363254)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高分子構造・物性 / 高分子微粒子 / 光変形 |
研究実績の概要 |
本研究は光刺激で形状を変える高分子微粒子の開発に関する。微粒子は塗料や化粧品、デバイス、メディカル分野など実に幅広く使われており、現在も高度な利用のための研究が進められている。中でも高分子微粒子は、化学種の多様性や軽量であることなどを特徴としている。高分子微粒子の性能を左右する粒径や化学構造などのファクターの中で、形状も重要な要素であり、マイクロからサブマイクロオーダーになると細胞への取り込みや光散乱に影響があることが知られている。外部刺激、中でも光刺激で形状を変えることができれば、こういった機能を遠隔操作や生体温度で操作できるようになる。これまでの研究では、光刺激で分子の形状を変化させるアゾベンゼンに着目し、これを含む高分子微粒子を不均一系重合で合成して、多様な光変形を可能にしている。現在のところ、その変形は不可逆なものに限られているが、微粒子の用途を考えると、変形を可逆にすることが望ましい。このためには分子を三次元的に結合する「架橋」構造を形成させるのが有効であり、本研究は架橋アゾベンゼン高分子微粒子の合成と該微粒子の特徴を活かした光変形手法の開発を目的としている。しかし、高分子微粒子の合成法として一般的な不均一系重合では、架橋高分子微粒子の合成は通常は困難である。微粒子の合成の際、微粒子の形成と架橋とが同時に進行し、微粒子どうしの癒着や合体が起こるためである。 そこで、アゾベンゼン含有高分子微粒子の分子構造から見直し、不均一系重合に適したアゾベンゼン含有モノマーを新たに合成し、重合条件を探索することから開始した。現在、目的の微粒子を合成できる条件を見いだし、データを蓄積中である。今後、得られた微粒子の形状と微粒子内でのアゾベンゼンの秩序構造との相関や、光変形挙動を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は光刺激で可逆な変形をする高分子微粒子の開発を目的としている。2020年度は主に合成に着目して検討した。まず、光機能性分子であるアゾベンゼンを含む高分子微粒子の、不均一系重合である分散重合や沈殿重合による合成を試みたが、既報のアゾベンゼンモノマーは適用できなかった。次いで、ミニエマルジョン重合を適用して該微粒子を得たところ、架橋アゾベンゼン微粒子を得ることに成功した。この微粒子はアゾベンゼン部位のシス-トランス光異性化に伴う吸収波長の変化を見せ、架橋構造の形成に由来する耐溶媒性や耐熱性の向上を示したが、架橋密度の高さから変形挙動を示さなかった。そこで、分子設計を行い、新たなアゾベンゼン含有モノマーを合成した。検討の結果、重合条件を選ぶことで架橋アゾベンゼン高分子微粒子を得ることに成功した。また、この微粒子は真球状ではない形状であった。架橋高分子微粒子の合成に適した分子構造をもつモノマーの新規開発、および、異方的な形状をもつ高分子微粒子の合成というこれらの結果は、不均一系重合の分野において興味深い。架橋アゾベンゼン高分子微粒子の合成に成功するという当初の目的は達しており、現在は収率の向上や微粒子形成メカニズムの解明を目的としてデータを蓄積しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに得られた高分子微粒子の形成メカニズムを検討し、微粒子形状を決める要因を検討する。通常の不均一系重合では真球状の微粒子が得られるのに対して、ここで得られた微粒子は異方的な形状を示していた。先行研究でも非架橋性のアゾベンゼンモノマーの分散重合では異方的な形状をもつ微粒子が得られており、アゾベンゼンの配向挙動との相関が見られたことから、同様の要因が予想され、これをもとに効率的に検討を進める。また、これらの結果は微粒子の設計にフィードバックすることにもなるため、引き続きモノマーの分子設計から微粒子合成の検討も進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
経費節約に努め、研究の必要に応じて最小限のものを購入した結果であり、また、コロナ禍において旅費が発生しなかったためであるが、研究はおおむね順調に進行しているため問題はない。今後、高分子微粒子の大量合成が必要となるため、そのための試薬やガラス器具に充てる計画である。
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