研究実績の概要 |
R4年度はよりミクロな方向に考察を進めることとした。結晶相や非晶相の構造を広角X線回折及び小角X線散乱法で調べ,以下の①~⑤が明らかになった。① 材料を高圧水素に曝露した後に大気圧に減圧したところ,結晶相のd値,回折強度の変化は見られなかった。② 同様の曝露に対して,結晶相と非晶相の密度比が10%程度増加し水素脱離とともに元の値に戻った。③ 圧媒を用いて静水圧を印可すると、結晶相の面間隔が減少した。④ ③の変化は減圧と同時に短い時間で元に戻った。⑤ ③の変化を引っ張り応力の結果[桜田(1969)]と比較すると、分子間に働くポテンシャルに非対称性が有る。 ①と②から水素曝露後に結晶相には変化が無く非晶相の密度が一時的に低下し,水素脱離とともに元の状態に回復することが分かる。これはすなわち、材料中に溶解した水素の運動エネルギーにより分子鎖間の距離が増加したと考えられる。⑤の非対称ポテンシャルU(R)は,Pastine (1968)によって定式化されている。本研究では極めて簡略化した1次元のモデルを仮定し,分子鎖間距離Rに対してU(R)の相互ポテンシャルが作用するものとしてその応力を計算した。分子鎖間に働く力は-dU(R)/dRで表され、水素の運動エネルギーはボイルシャルルの法則にしたがう気体として扱った。水素含有した試料の巨視的な体積増加は数%であるので,分子鎖間距離が1.7%増加したときの3%のひずみに対する応力を計算すると,引っ張り,圧縮ともに曝露前のときの75%程度まで減少した。このようにミクロなモデルを用いることで、実験的に観察される体積変化と整合性良く、弾性率減少を説明することが出来た。
|