研究課題/領域番号 |
20K05624
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
寺本 英敏 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, グループ長補佐 (60391562)
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研究分担者 |
小島 桂 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (40370655)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遺伝暗号拡張 / カイコ / 構造タンパク質 / ピロリシル-tRNA合成酵素 / 人工アミノ酸 |
研究実績の概要 |
本課題では、ピロリシル-tRNA合成酵素(PylRS)を利用する遺伝暗号拡張手法がカイコで有効であることを示すとともに、導電性人工アミノ酸を組み込んだシルク繊維の生産を実現させ、構造タンパク質生産ホストとしてのカイコの有用性を実証する。本年度は、以下の研究を実施した。 ・Pyl-tRNAを絹糸腺で発現するTGカイコの作出:シルクタンパク質の主成分フィブロインは、そのアミノ酸組成の約30%をアラニン(Ala)が占める。絹糸腺でのAlaの大量消費に呼応し、カイコは絹糸腺でのみ特異的に発現するAla-tRNA遺伝子をもつ。ゲノム中ではこのAla-tRNA遺伝子と約80塩基対の配列とが1ユニットを形成し、それが22個並列している。したがって、この約80塩基対の配列が絹糸腺特異的なtRNA発現因子と考えられる。そこで、この約80塩基対の配列とPyl-tRNA遺伝子とをつなげて1ユニットとし、それを5個並列させた組換えベクターを用いてTGカイコを作出し、ゲノム中に3座6コピーの組換え遺伝子をもつTGカイコ(H19)を樹立した。Pyl-tRNAのアンチコドンはフィブロイン遺伝子で最も出現頻度の高いAlaコドン(GCT)に対応させた。現在、絹糸腺でのPyl-tRNAの発現を解析中である。 ・PylRS変異体を絹糸腺で発現するTGカイコの作出:古細菌(M. mazei)由来のPylRSでは多様な人工アミノ酸を認識する様々な変異体が知られている。特にY306A/Y384F変異体はリジン(Lys)の誘導体を中心とする多種類の人工アミノ酸を同時に認識することが知られている。そこで、PylRS(Y306A/ Y384F)変異体を絹糸腺で発現するTGカイコを作出し、ゲノム中に1座2コピーの組換え遺伝子をもつTGカイコ(H16)を樹立した。絹糸腺でのPylRS変異体遺伝子の発現をRT-PCRにより確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の計画として、Pyl-tRNA遺伝子を組み込んだTGカイコ(H19)とPylRS変異体遺伝子を組み込んだTGカイコ(H16)の計2系統の樹立を設定していた。計画通りこれら2系統のTGカイコを樹立できた。H16系統については絹糸腺でのPylRS変異体の発現をRT-PCRで確認できている。H19系統については絹糸腺でのPyl-tRNAの発現を現在解析中である。これらの状況から計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、H19系統の絹糸腺におけるPyl-tRNAの発現解析を引き続き実施する。同時に、H16系統とH19系統とを掛け合わせることによりPylRS変異体とPyl-tRNAとを絹糸腺で同時に発現する交雑系統(H16×H19)を作出する。H16×H19系統に人工アミノ酸(Z-Lys)を投与し、フィブロイン中へのZ-Lysの導入有無について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
組換えベクターの作製およびTGカイコ系統の樹立がスムーズに進んで所定の成果が得られ、試薬等の購入費用が抑えられた結果として次年度使用額が生じた。翌年度請求分と合わせ、H19系統におけるPyl-tRNA発現解析試薬の購入やTGカイコ系統の維持にかかる経費、人工アミノ酸(Z-Lys)の購入費や飼育実験の費用等に充てる。
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