応力印加下の高分子に溶媒を塗布することで亀裂が走るソルベントクラック現象の分子論を、全原子分子動力学(aa-MD)計算を用いて、明らかにすることが本研究課題の目的である。令和3年度ではメタノールと水を接触した状態において、PMMAの破壊応力が低下することを実験・計算両面から確かめた。MD計算の解析から、溶媒が接触した高分子は接触していない高分子に比べて動きやすいことがわかった。これにより、降伏応力が下がり壊れやすくなったと考えられる。令和4年度は、高分子中での低分子の拡散を正しく計算するための理論的研究を行った。しかしながら、本計算で得られたシミュレーション結果は定性的には実験と一致しているものの定量性に欠けていた。 令和5年度は定量的な議論に耐えうるシミュレーションを実施する為に、PMMAのaa-MD計算系の再構築を行なった。変更点の一つ目は分子量分布である。これまでの研究では分子量分1のモデル系を対象に研究を行ってきた。しかしながら、実際の高分子材料は分子量分布を持つ。そのため、ゲル浸透クロマトグラフィー測定により得られたPMMAのデータを面積比にして90%再現するようにaa-MD計算系の分子量分を設定した。変更点の二つ目はからみ合い点間分子量の調整である。これまでの計算では実験値と大きくかけ離れていた。からみ合い手法の見直しを行いより実験値に近いからみ合い点間分子量を実現した。以上の操作により定量的にも議論可能なaa-MD計算系を作成した。
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