研究課題/領域番号 |
20K05637
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
福岡 徳馬 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域 機能化学研究部門, 研究グループ長 (90415737)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 弾性タンパク質 / 人工ポリペプチド / バイオエラストマー / レジリン |
研究実績の概要 |
本研究では昆虫の外骨格を形成する高弾性タンパク質である「レジリン」をモデルとした人工ポリペプチドの創製に取り組んだ。レジリンの代表的な繰り返しアミノ酸配列として知られる、キイロショウジョウバエ由来レジリンのExon Iドメインの配列(GGRPSDSYGAPGGGN:EIと略記)、およびガンビエハマダラカ由来レジリンの配列(AQTPSSQYGAP:Agと略記)に焦点を当て、遺伝子工学的手法を利用して大腸菌発現系により、これらの配列が合計32回繰り返し連結した分子量4万前後の3種類のポリペプチドを得た。具体的にはAg配列が連続して32回繰り返されたポリペプチド(Ag32)、N末端側からAg配列が16回、EI配列が16回繰り返してブロック共重合体状に連結したハイブリッドポリペプチド(AG16+EI16)、およびその逆の繰り返し配列を持つポリペプチド(EI16+Ag16)の3種を選定した。 今年度も引き続き、ポリペプチドの構造の違いによる生産性を確認しながら目的ポリペプチドの大量取得を目指して培養実験を繰り返し行った。さらに、得られたポリペプチドの水溶液からキャストフィルムを作成するとともに、酵素反応によるペプチド鎖中のチロシン残基の酸化カップリング実験に着手した。種々の条件検討の結果、ポリペプチドの溶解性が高い尿素水溶液を反応溶媒として用い、当該溶液中で活性が大幅に向上するシトクロムcを触媒としてカップリング反応を行うことで効率的に架橋反応が進行し、容易にハイドロゲルを得ることができた。今後はポリペプチドの分子構造(アミノ酸配列)の違いによるゲル化反応の最適化や得られたフィルム・ゲルの機能比較を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、本研究の中で構造・機能の比較を行うために選抜した3種類のポリペプチドの量の確保を行うとともに、チロシン残基の酸化カップリングによるポリペプチド鎖の分子間架橋反応の条件検討に取り組んだ。Ag32ポリペプチドを中心に反応条件検討を行い、反応溶媒とそれに適した触媒の選択を進めた結果、効率的にハイドロゲルが得られる適切な反応条件を見出した。 次年度はさらなる反応条件の最適化に取り組むとともに、得られた結果をハイブリッドポリペプチドに適用し、分子構造の違いによるポリペプチドの物性評価・比較を効率的に行うことで研究を加速させたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に見出したキャストフィルム、ハイドロゲルの調製条件を基として、反応条件のさらなる最適化に取り組む。また、得られたフィルム、ゲルについて熱物性、力学物性(引張・圧縮試験)などの機能評価を行う。チロシン残基の酸化カップリング反応前後による構造変化の追跡、分子構造(アミノ酸配列)の違いによる機能比較に取り組む。 限られた量のポリペプチドを用いて物性比較を行うためには微小かつ均一な試験片を作製して試験を行う必要があり、その対策として適切な形・寸法のテフロン製のテンプレートを準備してサンプル調製を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で得られる微小なハイドロゲル試験片などの力学物性の評価には、現在所有している引張試験機用の治具とは異なる形状の治具を新たに購入した方が効果的であることが分かった。今年度中の調達請求が間に合わなかったため、次年度予算と合算してその購入に予算を充てる予定である。
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