研究課題/領域番号 |
20K05638
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
門多 丈治 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 主任研究員 (40416350)
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研究分担者 |
平野 寛 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 総括研究員 (10416349)
岡田 哲周 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究員 (70633650)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポリ乳酸 / 高伸張性 / 有機触媒 / 精密ブロック共重合 / プラスチック |
研究実績の概要 |
廃プラスチック問題の解決策として、生分解性かつバイオマス由来のポリ乳酸への置換が望まれているが、ポリ乳酸は脆く、強度と柔軟性の両立が難しいため、既存プラスチックの代替は進んでいない。柔軟性と強度を両立させる方法として、ブロック共重合による柔軟成分の導入が有望であるが、ポリ乳酸系で、ブロック比・配列を高精度に制御できるブロック共重合法は確立されておらず、学術的課題となっている。 これまでの研究で酵素を模倣した酸塩基有機重合触媒を開発し、分子量と一次構造を正確に制御した特殊構造ポリ乳酸の精密合成を可能としている。本研究課題では、この精密合成法を基盤としてポリ乳酸系の精密ブロック共重合法を確立し、構造と物性の関係を明らかにすることで、柔軟性と高強度を両立させた高伸張ポリ乳酸系プラスチック新素材の開発を目指し、環境問題の解決策に繋げることを目標としている。本年度は、剛直鎖と柔軟鎖から成るブロックコポリマーの精密合成に重点を置き、その鎖長、ブロック比率と柔軟性の関係について検討した。 まず、柔軟なポリエチレングリコール(PEG)を開始剤として、両末端にポリ乳酸を結合させた、剛直-柔軟-剛直配列のABAブロックコポリマーを精密合成した。A/B/A比は、用いるPEGの分子量(B成分)、ポリ乳酸の重合度(A成分)によって制御可能であることを確認し、最小16,000(7,000/2,000/7,000)~最大52,000(25,000/2,000/25,000)までの分子量範囲のものを得た。 得られたABAブロックコポリマーを、市販ポリ乳酸に5~20重量%添加し、その引張特性(強度、伸び)を評価した結果、強度をほぼ維持したまま大幅に伸びが向上することが分かり、高伸張性ポリ乳酸となり得る組成を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基盤技術となるポリ乳酸系精密ブロック共重合法を活用することで、剛直-柔軟-剛直配列のABAブロックコポリマーの精密合成に成功し、本年度の目標は達成した。同時に強度の保持と高伸張性を両立できる配合比を見出しており、最終目標となる高伸張性ポリ乳酸の開発の手掛かりを得ている。いずれの成果も当初の期待通りであり、本研究は順調に進行している。得られた研究成果は高付加価値なプラスチック新素材に直結する可能性が大きく、工業材料開発の方向へ順調に進行している。一方で、研究成果の公表については、学会発表を予定していたところ、年度中の学会が実質上中止あるいはウェブ開催となってしまったため、外部研究者と直接議論する機会が制限される状況が続いた。次年度は実地開催を期待しているものの、通常の学会発表だけでなく、展示会等も含めた発表、議論の場を探して成果の情報発信に努める必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究の最終目標となる強靭な高伸張性ポリ乳酸新素材の開発に注力する。昨年度の研究成果から、ブロックコポリマーの柔軟鎖(PEG)比率を高め、分子量を小さくすることで、より一層の高強度化と高伸張性が達成可能と予想されており、その精密合成と物性評価に取り組む。最終的には溶融粘度などの成形加工性を調べ、押出成形、射出成形を試みたいと考えている。得られた知見については企業への技術移転、特許出願も視野に入れており、企業との情報交換を行いたい。また、成果がまとまり次第、論文投稿を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由)計画当初は、研究成果発表のための出張費(実地開催)を計上していたが、予想に反してほぼオンライン参加のままであったため、その分が次年度使用額として残った。 (使用計画)工業材料の開発を目標としているため、合成、物性評価の検討に当初の予定以上の原料、研究物品の購入が必要になると予測される。また、着実に研究成果が得られているものの、本年度未発表にせざるを得なかった成果について、次年度と合わせて学会、論文等で発表することを予定しており、それらの費用の増額が必要になると考えている。以上の状況から、本年度節約できた繰り越し分を、物品費、論文投稿費用等に充当させることで、効率的な研究費の使用が可能になると考えている。
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