研究課題/領域番号 |
20K05643
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
二木 かおり 千葉大学, 大学院理学研究院, 助教 (10548100)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 有機分子 / 表面科学 / 電子状態 / 波数分解光電子分光法 |
研究実績の概要 |
我々の研究目的は、基板に吸着した有機分子の波数分解光電子分光スペクトルの解析法の確立を通して、吸着した有機分子の電子状態や分子間の相互作用を明らかにすることである。これらの考察を通して、これまで明らかになっていない有機分子膜結晶の伝導性の起源を明らかにできると考えている。これまでに、多重散乱法をベースにした分子軌道からの波数分解光電子放出スペクトルを解析するプログラムをオリジナルで開発して報告した。さらにこのプログラムを使用して実験結果を解析することで、有機分子の基板への吸着位置を明らかにできることを示した。今年度は、「平面波近似による基板表面に吸着した有機分子からの波数分解光電子スペクトルの解析」と「波数分解光電子スペクトルの数学的解析法の確立」に成功した。波数光電子分光スペクトル強度を解析する際には、フェルミの黄金律に基づき、始状態と終状態を精度よく計算する必要がある。今年度、我々は始状態計算の計算法に加え、波数分解光電子スペクトルの解析手法についても計算法を確立することができた。 一方、終状態計算に関しては、当初の目的である周期系への拡張が、今だ進んでいない。しかし、ダイレクトに終状態を計算して導入する方法を拡張することで、計算がうまくいく兆しを見せている。これにより、波数分解光電子分光スペクトルへの光電子の散乱の度合いの推定が可能になる。さらに、フォノンや電子-ホール効果などの多体問題を考察していく下地ができると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は「1.平面波近似による基板表面に吸着した有機分子からの波数分解光電子スペクトルの解析」と「2.波数分解光電子スペクトルの数学的解析法の確立」に成功した。1についてはHOMO軌道からの波数分解光電子放出を、密度汎関数理論をベースとした平面波近似法で解析した。吸着分子は非常に大きい系であったため、密度汎関数理論を用いて基底状態を計算するのに苦労した。スピンやユニットセルの大きさを考慮し、軌道の順番を確認しながら計算をするノウハウを確立した。基板の計算においても、バンドギャップのある系での計算法のノウハウの確立に成功した。バンドギャップの幅は、実験と比べながら、パラメーター2種を調整する。最終的に基板と吸着分子を合体させ、構造最適化を重ねながら系を作成し、電子状態を計算することに成功した。この過程で、東京大学のスーパーコンピューターや千葉大学の計算機センターを利用させた頂き、その最適な使用・制御法を確立した。更にmo-posという吸着系の電荷分布を計算する世界唯一のプログラムを共同開発者から譲り受け、吸着系の電荷分布の計算、軌道の混成を明らかにした。これにより吸着系での電子状態や波数分解光電子スペクトル解析を行うことに成功した。 2に関しては、波数分解光電子スペクトルの実験画像から、始状態を明らかにする全く新しい手法の開発を行っている。当初ニューラルネットワークを利用した画像解析手法をベースとした解析手法の確立を目指したが、データー量が大きすぎて我々の手には負えなかった。このため、数学的によりスマートな処理法の確立を目指した。これが一部成功した。理論的に作成したPADからの始状態の軌道回復には成功することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに我々は周期性を持つの基板に吸着した分子の、始状態計算のノウハウを確立することができた。さらに、波数分解光電子スペクトルの解析手法も確立することができた。一方、終状態計算に関しては、当初の目的である周期系への拡張がいまだ進んでいない。しかし、共同研究において少し進展があり、ボルン近似を入れた計算方法に加え、ダイレクトに終状態を計算して導入する方法を拡張する方法により、波数分解光電子分光スペクトルル計算がうまくいく兆しを見せている。これまでの我々の計算法は、理論上は終状態をダイレクトに入れるが、その後複数の式展開と近似を導入し、3つの計算ブロックに分けることで計算を行ってきた。この手法はポテンシャルに異方性がないと仮定するマフィンティン近似が含まれている。さらにクラスター計算しか行うことができない。このため実験で観測されるスペクトルが、多重散乱由来なのか、周期系の基板の特性由来化が判別されてこなかった。今後、ダイレクトに終状態を計算し。プログラムに導入して計算を行うことで、同時に始状態と終状態に周期性を持った吸着系の効果を入れた計算が可能になる。これにより、波数分解光電子分光スペクトルへの電子の散乱の割合の推定(多重散乱の割合の推定)が可能になる。さらに、フォノンや電子-ホール効果などの多体問題を考察していく下地ができると予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度10月にドイツでの国際学会があった。しかし、10月はコロナが猛威を振るった時期で、小さい子供が家にいる私は海外への渡航を断念した。またほとんどの国内学会や打ち合わせもすべてリモートで行った。このため旅費を予定額分使用することがなく、R4年度へ繰り越した。R4年度は年度当初から研究室の学生である協力研究者のオーストリアの共同研究者のもとへの派遣などが予定されている。私も同行する予定である。飛行機代なども以前に比べ上昇しているため、前年度繰り越したお金を有意義に使うことができると予想される。
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