研究課題/領域番号 |
20K05644
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
飯野 裕明 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (50432000)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 液晶性有機半導体 / Nチャネル有機トランジスタ / 液晶性ペリレンジイミド誘導体 / 液晶性ジアルキルBTBT誘導体 / 電荷移動錯体 |
研究実績の概要 |
2021年度は①液晶性のペリレンジイミド誘導体を用いたNチャネル有機トランジスタの高移動度化および、電荷移動錯体を用いたNチャネル有機トランジスタを研究した。 ①の液晶性のペリレンジイミド誘導体においては、スピンコート法にて製膜した薄膜を165℃に加熱すると、偏光顕微鏡像が大きく変化した。これは、液晶相に相転移し分子が配向したことに起因していると考えられた。その後、この薄膜に結晶核が存在すると結晶成長が起き、大きな結晶薄膜が容易に形成できることが明らかになった。この結晶核の形成においては、薄膜の一部を有機溶媒で溶解させ再結晶化させることで、形成場所を制御することができるようになった。結晶成長させた液晶性ペリレンジイミド誘導体では、10-3cm2/Vs台の移動度を示すNチャネル有機トランジスタが安定的に形成できた。また、液晶セル中の試料においても結晶成長させることで過渡光電流測定法においても明確なトランジットが観測でき、0.1cm2/Vs台の電子移動度を示した。 ②の電荷移動度錯体を用いたNチャネル有機トランジスタにおいては、液晶性ジアルキルベンゾチエノベンゾチオフェン(BTBT)誘導体とフッ素化テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体の電荷移動錯体薄膜を簡易な方法で大面積に形成する手法を明らかにした。液晶相で製膜した液晶性ジアルキルBTBT誘導体にTCNQ薄膜を蒸着後、加熱することで、TCNQ分子が液晶性ジアルキルBTBT薄膜中に拡散し、平坦性の高い電荷移動錯体薄膜を簡易に形成できる手法である。この手法で作製した電荷移動錯体薄膜でトランジスタを作製したところ、大気中で10-4cm2/Vs台の移動度を示すNチャネル有機トランジスタが実現した。この電荷移動錯体薄膜はLUMOレベルが深く酸素分子や水分子の多い大気中でも安定に動作したものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、有機薄膜の製膜およびトランジスタ特性評価まで一貫してグローブボックス中で実施できる環境を整え、酸素分子や水分子の影響を受けないトランジスタ特性の評価が可能になった。これにより、2020年度までに必要であった測定前の真空下での加熱による酸素分子や水分子の除去の工程が不要になった。モデル材料として液晶性ペリレンジイミド誘導体に加え、液晶性ジアルキルBTBT誘導体を用いた電荷移動錯体も候補になり、Nチャネル有機トランジスタの評価ができるようになった。これらの実績をもとに、2022年度は目的であるLUMOレベルの深い棒状液晶材料のNチャネル動作の実証ができるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、LUMOレベルの深い棒状液晶材料の有機トランジスタをグローブボックス中で一貫して作製することで、Nチャネル動作を試みる。製膜条件や結晶化条件は、2021年度に明らかにした液晶性ペリレンジイミド誘導体の結晶成長手法も検討を行い、高移動度のNチャネル動作を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度に必要な試薬や実験物品を購入するために、次年度使用額が生じた。これらの試薬や実験物品を利用して、LUMOレベルの深い棒状液晶材料の有機トランジスタの実現を目指す。
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