研究課題
機械的刺激を加えた際にフォトルミネッセンスの色が変化するメカノクロミック発光材料は、次世代のスマート材料としての応用が期待されている。本研究では、非晶質状態における分子運動性の向上や、二成分系色素のエネルギー移動を利用することで、機械的刺激付与後に発光色が高速で回復するメカノクロミック発光を実現することを目的としている。令和2年度の研究では、鎖長の異なるアルキルアミド鎖やエチレングリコール鎖を導入したフェニルピレン誘導体が高い蛍光量子収率で発光することを見出した。そこで、令和3年度は、置換フェニルピレン誘導体における置換基の位置と種類が蛍光量子収率とメカノクロミック発光特性に与える影響を評価したところ、いずれの場合も、励起状態で接近したピレン環同士がエキシマー発光を示す際に高い蛍光量子収率で発光することを明らかとした。また、ピレンに直接アルキル基を置換した誘導体を合成したところ、アルキル鎖長の違いに応じて機械的刺激付与後の発光色の回復挙動が異なることを見出した。一方、令和2年度の研究で見出した段階的な発光変化を示す二成分系メカノクロミック発光の機構が、エキシマー錯体と電荷移動錯体の段階的な形成に由来することを明らかとした。また、メカノクロミック発光における自己回復挙動を制御するためにジアルコキシ基を導入したフェナントロイミダゾール誘導体を合成したところ、種々の溶媒分子を取り込むことで発光波長が異なる擬多形結晶を生成することを見出した。さらに、微量の異分子を混合した二成分系色素を創製することで、メカノクロミック発光における波長変化量を制御することにも成功した。これらの成果により得られた知見は、高速メカノクロミック発光材料の発光波長や波長変化量を制御する上で有用な設計指針となる。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に従って合成したフェニルピレン誘導体によりメカノクロミック発光を実現するとともに、アルキルピレン誘導体により自己回復性のメカノクロミック発光を実現することに成功した。また、二成分系色素によるメカノクロミック発光では、当初の計画で想定していなかった二段階のメカノクロミック発光を実現し、その機構を解明した。また、高速メカノクロミック発光の実現を目指す過程で合成した分子により、予期せぬ結果であるが、種々の溶媒分子を包接した擬多形結晶が得られることを見出した。以上のように、本研究課題は当初の計画に従って着実に進展するとともに、想定外の興味深い成果も得られており、おおむね順調に進展している。
令和4年度は、これまでの研究で合成した各種ピレン誘導体をゲスト分子と混合した二成分系色素を創製することで、機械的刺激付与時の波長変化量が大きく自己回復速度が速いメカノクロミック発光を実現することを目指す。また、当初の計画に従い、ピレン担持シリカ粒子を用いてフォトニック結晶ゲルを得る手法を確立するとともに、圧力刺激に応答して発光色が変化するゲル材料の創製に取り組む。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 4件) 備考 (2件)
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