研究課題/領域番号 |
20K05648
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡本 秀毅 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (30204043)
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研究分担者 |
山路 稔 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (20220361)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フェナセン / 有機物半導体 / 電界効果型トランジスタ / ヘリセン / ロジック回路 |
研究実績の概要 |
フェナセンπ電子骨格を活用し,新規な高性能有機半導体材料の開拓を目的として以下の検討を行った. 1.[n]フェナセンの両端にベンゼン環を追加したジベンゾ[n]フェナセン(DBnP, n=5~7)を簡便に合成し,単結晶有機電界効果型トランジスタ(FET)の特性を評価した.DBnPを用いたFETはp型で動作した.C2h対称の分子構造を持つDB6PはC2v対称構造を持つDB5P,DB7Pに比べて高い性能を持つことが明らかとなり.今後の有機FET材料の設計指針が得られた. 2.[6]フェナセンや分子の長軸方向にアルキル鎖を持つ[5]フェナセン誘導体を用いて,有機ロジック回路の作成と動作特性の評価を行った.p型半導体として[6]フェナセンあるいはアルキル置換[5]フェナセンを,n型半導体としてペリレンビスイミド誘導体を用い,ring oscillatorを作成した.この回路はそれぞれ21 Hz, 26 Hzで動作することが示され,フェナセン有機半導体を用いてロジック回路が実現できることを示した. 3.新規フェナセン材料の構築を検討するため,[7]フェナセンの分子両端に電子求引基としてイミドを導入し,その基礎的電子特性を吸収と蛍光スペクトルにより調べた.この化合物は溶媒極性の変化に対してブルーからオレンジまで蛍光色を変えることが明らかとなった.時間依存密度汎関数法により励起状態の電子特性を解析したところ,[7]フェナセンπ系からイミド部位への分子内電荷移動特性が蛍光の溶媒応答性を示す原因であることがわかった. 4.らせん状[7]ヘリセン分子の両端のベンゼン環に電子供与性部位と電子吸引性部位を導入し,新しいπ電子骨格の基礎的電子特性を評価した.実験的吸収及び蛍光スペクトルの観測により,溶媒極性に応答して蛍光色が変化することが観測され,環境応答型のヘリセン電子特性が得られることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フェナセンπ電子骨格の電子特性を利用して,高性能有機物半導体を開拓するにあたって2020年度はπ系拡張の効果,電子求引基導入によるn型FET材料の構築を検討した. 1.フェナセン骨格の両端にベンゼン環を追加したジベンゾ[n]フェナセンはベンゼン環数n=5~7のホモローグのいずれも高い移動度を示し,FET材料として有効に働くことを見いだした.さらに,ジベンゾ[6]フェナセンは,ジベンゾ[5]フェナセン,ジベンゾ[7]フェナセンに比べてより優れた性能を示すことから,FET特性が分子の対称性にも依存していると推測される.これにより,FET材料の高性能化に対して新たな設計指針が得られた. 2.従来,フェナセン骨格を有するn型半導体材料は文献に見いだされなかった.[5]フェナセンの分子長軸方向にイミドを導入した[5]フェナセンジイミドを活性層とするFETはn型で作動することを実証し,フェナセンπ骨格を用いてn型FETデバイスを構築できることを初めて示した. 3.本研究課題で計画した光反応によるフェナセン骨格の合成は,おおむね順調に進行し,上記のほか,π拡張した[7]フェナセンジイミドの合成へ展開することが可能であった.[7]フェナセンジイミドの電子特性を調べた所,当初期待していなかった溶媒極性に応答する蛍光特性が観測された.これは,励起状態での分子内電荷移動性が原因であることに起因していることが,理論計算による解析で示唆された.また,光反応による多機能化ヘリセンの合成へも展開することが可能となり,FET特性の調査を幅広く行うことができる体制ができた.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は当初計画した,光反応により機能化フェナセン類の合成とFET特性の評価の方針に従って,より高性能なFET材料の構築を検討する. 1.これまでの検討から,分子の対称性とπ拡張の効果がFET材料の高性能化に重用であると考えられるので,特にC2hの対称性を有するフェナセン分子の構築とFET特性評価に重点を置く. 2.新規FET材料を探索する過程で,分子内電荷移動型励起状態の電子特性に起因する蛍光スペクトルの挙動が観測されたことから,FET材料への応用とともに,発光挙動の詳細についても検討を加える.これにより,機能化フェナセン類の電子的特性と半導体特性との関連をより詳細に解析する予定である. 3.光反応を用いて,機能化ヘリセンなどのπ拡張芳香族化合物の合成も可能になったため,フェナセンに加えて新規π拡張芳香族化合物のFET特性へも展開する計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に参加した学会が,コロナウイルス感染症対策のためにすべてオンライン開催となった.これにより,当初計画していた学会参加のための旅費が必要なくなったので,次年度に使用することとした.2021年の学会が現地開催で行われる場合にはその参加旅費として支出する.また,2021年度もオンライン開催となった場合には,薬品等の消耗品に充当する計画である.
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