研究実績の概要 |
(1)フェニル-アルキル置換フェナセンの合成とFET特性:2021年度に引き続き,アルキル-フェニル置換[n]フェナセンの合成を検討した.アルキル鎖長とフェナセン共役長の異なる6種の誘導体を合成し,その電子特性と薄膜FETデバイス特性を評価した.フェニル基とデシル基を有するピセンに対して最も良好な移動度が観測され,適切な共役長と置換基の選択により移動度が向上することを明らかにした. (2)ジベンゾ[n]フェナセンのFET特性評価:ジベンゾ[n]フェナセン(n = 5-7)が高い移動度を示すことを2021年度に報告した.2022年度は高性能FET特性が発現する機構を,単結晶FETデバイス特性を詳細に調べて評価した.ジベンゾ[6]フェナセンは他の化合物に比較して良好なFET特性を示すことを明らかにした.ジベンゾ[6]フェナセンが,高い結晶性と強いπ-π相互作用を実現する分子の形状を有していることが優れたFET性能を実現する要因であると考えられる.この結果は将来の高性能FET材料を設計する指針の一つとなり得る. (3)フェナセンを母体とする機能性色素の開拓:イミド修飾[n]フェナセン(n = 3,5,7)を合成し,電子特性を評価した.これらのフェナセンはFETデバイスの活性層として有効ではないことが明らかとなった.一方,電子スペクトルの詳細を調べたところ,溶媒に応答して蛍光色が顕著に変化する蛍光ソルバトクロミズムを見いだした.従来,フェナセン類は発光色素として活用されなかったが,この発見により新規な発光材料としても展開できる可能性が見いだされた. (4)本研究課題を通して,フェナセンπ骨格を基盤とするFET材料の合成,電子特性およびデバイス特性の評価によって高性能FET材料創成の指針を得ることができた.本研究課題の成果は将来の有機電子材料創成に寄与できると考えられる.
|