研究課題/領域番号 |
20K05653
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
三井 正明 立教大学, 理学部, 教授 (90333038)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光アップコンバージョン / 励起三重項状態 / 三重項-三重項消滅 / 励起エネルギー移動 / 燐光 |
研究実績の概要 |
三重項-三重項消滅に基づく光アップコンバージョン(UC)は、増感剤と発光体を組み合わせた系を利用して低エネルギーの光子を高エネルギーの光子に変換する手法である。太陽光程度の光強度でも機能することから、太陽電池や光触媒の高効率化に寄与することが期待されている。そのためには固体状態での高効率UCの実現が必要であり、固体中での増感剤と発光体の混合状態の微視的理解と制御やUCに関わる素過程の効率評価・向上が重要となる。本研究では、顕微計測装置を用いた発光イメージングを、金属ポルフィリンの一種であるXTPTBP(X = Pd, Pt)増感剤、アントラセン誘導体であるDPAあるいはC7sDPA発光体とした混合微結晶に適用し、三重項エネルギー移動(TET)効率や増感剤・発光体の存在分布の評価に取り組んだ。発光イメージング測定には、発光体を直接励起するための405 nmレーザーおよび増感剤を励起するための640 nmレーザーを用い、対物レンズで回折限界まで集光し試料に照射した。微結晶に対する蛍光および遅延蛍光イメージ(100x100画素)の励起速度依存性を測定し、高励起速度極限の仮定に基づく速度論モデルによって各画素のデータを解析し、各画素における増感剤と発光体の存在数とTET効率を決定した。今回の系の溶液中のTETは0.18 eV 程度の吸熱過程であり、TET速度は~10^5 M^-1s^-1と極めて遅い。しかし、結晶中でのTET効率はどの箇所でも0.99を超え、非常に効率よくTETが起こっていることが分かった。この理由として、結晶化によって発光体のT1状態が安定化し、増感剤-発光体間のエネルギーギャップが小さくなったこと、固体状態では複数の発光体が増感剤と常に接触していること、溶液中よりも熱活性化が効果的に起こることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、三重項-三重項消滅フォトンアップコンバージョン(TTA-UC)を示す有望な固体系に対して空間分解分光分析を実施し、TTA-UCに関わる重要なパラメータである増感剤・発光体分子の存在量、三重項励起エネルギー移動効率、TTA-UC効率のマッピング化する方法論の確立が本研究課題の主要目的であるが、すでにその段階にまで到達した。また研究を推進していく中で、様々な配位子保護貴金属クラスターがTTA-UCの三重項増感剤として機能することを世界で初めて発見し、固体状態でもTTA-UCを示すことが確認した。PtAg24クラスター増感剤による近赤外-青色光変換の研究成果は、ドイツ化学会の代表誌であるAngew. Chem., Int. Ed.誌のCommunicationsとして報告し、その論文はHot paperおよびFrontispieceに選定された。また、Au2Cu6クラスターの三重項増感特性とTTA-UCに関する成果は、英国王立化学会のJ. Mater. Chem. C誌のTTA-UC特集号“Materials for thermally activated fluorescence and/or triplet fusion upconversion”に招待され、その論文に関するcover artが特集号の表紙に採用された。さらに、TTA-UC現象を通じたAu25クラスターの三重項性に関する研究成果が英国王立化学会のNanoscale誌のCommunicationsとして受理され、その論文に関するcover artも表紙に採用されることとなった。 以上のように、当初計画していなかった国内外で注目を集める画期的な成果が多数得られており、当初の計画以上に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、固体試料の三重項-三重項消滅フォトンアップコンバージョン(TTA-UC)特性(例えば、TTA-UC効率、三重項エネルギー移動効率、TTA-UCしきい光強度など)を巨視的に定量評価する計測システムの立ち上げに取り組む。顕微計測によって得られる各特性の空間不均一性と巨視的特性との対応を明らかにし、それらを試料作製条件にフィードバックして系の特性の最適化を進める。有機色素増感剤だけでなく、我々が初めて見出した金属クラスター増感剤の系も研究対象とし、溶液系に匹敵する高いTTA-UC効率かつ太陽光レベルの光強度でも機能する低しきい励起強度を有する固体系の創出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね計画通りの研究を進めた結果、本年度配分額の98%を使用し、14,165円が残額として生じた。よって、この残額分と次年度請求分(50万円)の合計514,165円を次年度の予算として使用する。使用計画としては、消耗品(有機溶媒、光学部品など)と謝金として英語論文校閲料に使用する予定である。
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