本課題では、Mn4+、Fe3+、Cr3+の3d遷移金属イオンを発光中心に使用した、可視光励起が可能な蛍光体の開発に取り組んだ。これらの蛍光体は650~750nmの深赤色領域に比較的鋭い発光ピークを示す。ヒトは赤色から雰囲気の寒暖や血色などの体調、そして生鮮食料品の新鮮さを感じ取っており、深い赤色は人の感性と密接に関わる。また、赤色光は植物の葉緑素によって光合成に利用され、シリコン光電池にも高い光応答を与えるなど、深赤色蛍光体の応用分野は、日常的な照明用途から植物育成用特殊照明、そしてシリコン光電池の発電効率向上のための波長変換フィルターまで多岐に及ぶ。 従来、蛍光体の励起に利用されてきた紫外線などの高エネルギー電磁波や電子線に比べて可視光がもつエネルギーは低く、従来からある蛍光体を可視光で励起することはできなかった。可視光励起を実現には、3d遷移金属発光中心イオンのd-d遷移の利用が有効であり、その配位環境を適切に制御することが可視光励起実現の鍵となる。 本課題で、古典動力学に基づく分子動力学(MD)による結晶構造シミュレーションを併用しながら材料合成を行い、LiAl5O8組成のアルミン酸リチウムを基本化合物とし、酸素の一部をフッ素に置換したフッ素ドープアルミン酸リチウム(ALFO)母体や、LiAlO2組成の蛍光体母体を新たに開発した。Mn4+、Fe3+、Cr3+を発光中心に用いて良好な深赤色領域の発光を示す蛍光体を実現するとともに、“三次元周期構造” で定義される結晶の中に内在する構造の不規則性が蛍光特性向上の鍵となることを提案した。
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