研究課題/領域番号 |
20K05661
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
岡田 友彦 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (30386552)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナノシート / 吸着 / フィロケイ酸塩 / 酵素 / 室温反応 |
研究実績の概要 |
層状化合物でおこる特異的な反応(選択的分子吸着や触媒反応など)が、層間を無駄なく使用して進行するような、層状化合物の結晶をデザインすることを目的としている。 本年度は昨年度に引き続き、層状ケイ酸塩を対象として、水溶液からの選択的分子吸着の機構を明確にするために、放射光X線や水蒸気吸着試験などを併用して検討した結果を論文として公表した。また、層状化合物の分子認識能について、天然酵素の活性サイトを参考に実験的に構築することを試みた。模倣酵素としては、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコン酸デヒドロゲナーゼであり、酸性アミノ酸(弱酸領域でカルボキシ基が解離する)を層間に取り込み反応を行なった結果、高い収率で2-ケトグルコン酸が得られた。水溶液中で、ナノシートーアミノ酸複合体が剥離した状態でなく、集合した積層構造をなすことが、活性発現に必要であることがわかった。酵素ほど分子認識能は高いとはいえないが、一つの複合体で二つの酵素機能が発現した点で興味深い現象である。この機構について、原著論文で公表した。 並行して、流通系で用いるための層状化合物の結晶デザインについて、水熱反応を利用して、種々の粒子表面において層状化合物を均一にコーティングする基礎技 術の構築にあたった。平滑表面の均一コーティングの可能性を検討するため、板状の酸化物粒子表面で試験した。その結果、板状粒子表面を層状化合物で均一にコーティングできることがわかり、その機構について原著論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水溶液からの選択的分子吸着の機構を明確にするために、放射光X線や水蒸気吸着試験などを用い検討した結果、層間に予め取りこまれている水分子が規則的な二分子層を形成しており、有機分子の選択吸着では、この水二分子層を切断しながら取りこまれる機構であることがわかったので、これを原著論文としてまとめ、Langmuir(vol. 37, 10469-10480, 2021)に掲載された。また、このような疎水性相互作用を酵素反応模倣に応用するため、酸性アミノ酸を吸着させた層状化合物をグルコースと水溶液中で反応させた。その結果、時間とともにグルコースが吸着され、室温付近で脱水素酸化が進行した。この結果を原著論文としてまとめ、Langmuirに掲載された(10.1021/acs.langmuir.2c00387)。 以上のように、層間を無駄なく使用する(有機分子の高容量保持に有効)技術や酵素のような触媒反応に適用できる結晶デザインについて検討が概ね順調に進んでいる状況である。
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今後の研究の推進方策 |
分子の吸着機構や結晶デザインの基本的な検討は前進している。今後は、層状化合物は層状ケイ酸塩に固定しつつ、工業的応用性を高めることを強く意識する。すなわち、その応用に適したデザイン(支持体にコーティングするなど)を提案できるように、支持体の多様性について深化させる。 原著論文の公開、学会発表、ロビー活動によって、無機材料化学分野だけでなく化化粧品分野、高分子分野などからの興味や関心が寄せられている。今後は、他機関との連携、産学連携を図りながら、合理的かつ応用性に優れた結晶デザインを進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度において、平衡系で興味深い現象(触媒反応)が発見され、この機構解明に注力した。また、流通系での吸着評価に関わる消耗品を次年度に一括して導入するために、当該年度での使用が計画より下回った。次年度は当該年度で導入する予定であった物品類を一括して使用する予定である。
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