研究課題
本研究では,半導体粒子中に存在するトラップ電子の反応機構を明らかにするとともに,これらを有効活用することによって,新たな光触媒反応系の構築に取り組む.研究開始初年度(R2年度)では,トラップ電子のエネルギー準位を解析するために,この準位から伝導帯への光吸収の検出を可能とする分散型分光光源を用いた中赤外の光音響システムを構築した.これにより,トラップ電子のエネルギー準位の解析と生成過程の観測が可能となったが,適用可能条件が気相反応系のみに限られていた.そこで,2年目(R3年度)はこの光音響システムを,懸濁(液相)系の反応に拡張することを目的に装置の改良を行った.光音響の分析セルと測定条件を適切に設定することにより,アルコール水溶液中における酸化チタン(IV)(TiO2)粒子中の電子蓄積に由来するスペクトル変化が観測できた.さらに,この系での経時変化測定を高精度に行うために,赤外連続光源ユニットとバンドパスフィルタを組み合わせた赤外単色光源を用いた分析システムをセットアップした.さらに分析系の構築と同時進行で,トラップ電子を用いた新しい反応系の構築も行った.「反応容器にTiO2懸濁液とドナーを封入し,不活性雰囲気下で紫外光照射することにより,TiO2に電子を蓄積させる」「その後,紫外光照射を止め,アクセプタを注入し,トラップ電子による還元反応を行う」の2段階反応を用いて,2年目(R3年度)は新たに2つの光触媒反応について検討を行った.この実験より,二酸化炭素還元によるメタノール生成,および,助触媒添加による水素生成反応が確認できた.これらのことから,TiO2中のトラップ電子には比較的エネルギーの高い(伝導帯下端から浅い準位に捕捉された)トラップ電子が比較的多く存在すると考えられる.
2: おおむね順調に進展している
当初の予定であった,(1)懸濁系に適用可能な中赤外光音響分析システムの確立と(2)トラップ電子を利用した光触媒反応系の構築において,どちらも順調に実験結果が得られている.以上の理由により,現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると思われる.
2年目(R3年度)で確立した「懸濁系に適用可能な中赤外光音響分析システム」と「トラップ電子を利用した光触媒反応系」を組み合わせ,トラップ電子による反応が起こっている実際の条件下で測定を行い,スペクトル分析・経時変化測定の結果から解析を行う.反応するトラップ電子のエネルギー準位と添加アクセプタの酸化還元電位の相関関係より,反応機構の解明を行う.また,「トラップ電子を利用した光触媒反応系」では,分析で得られた知見をもとに反応の効率化を目指すとともに,TiO2以外の半導体光触媒についても検討を行い,この反応系のアドバンテージを示すことを目指す.
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