研究課題/領域番号 |
20K05667
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
中戸 晃之 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (10237315)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 粘土 / コロイド / ゾルゲル転移 / 色素 / 発光 |
研究実績の概要 |
本研究は、アニオン性表面をもつ粘土鉱物粒子とアニオン性色素とからなる、粘土-色素ハイブリッド発光材料を開発することを目的としている。今年度は、緑色の発光を示すアニオン性色素Acid Red 91(以下AR91)の粘土コロイド中での分光学的挙動を調査した。粘土鉱物として、合成サポナイト(スメクトンSA)と合成ヘクトライト(ラポナイトXLG)を用い、これら粘土鉱物を水に分散させたコロイドにAR91を溶解して、吸収・発光挙動を調べた。 サポナイト-AR91系では、吸収スペクトルにおいてAR91の極大吸収波長とスペクトル形状が、粘土濃度に応じて変化した。スペクトル変化に等吸収点が見られたことから、粘土粒子がAR91に何らかの可逆変化を与えることがわかった。発光スペクトルでは、粘土濃度の増大にともなう発光強度の上昇が観察された。 ヘクトライト-AR91系では、純水中に粘土鉱物を分散させたコロイド中で、AR91の部分的な分解が見られたため、ホウ酸緩衝溶液でpH9.4に調整したコロイドに色素を溶解させた。その結果、粘土濃度による吸収スペクトルの波長と形状変化、発光強度変化とも、サポナイト-AR91系と同様の結果が得られた。 これらより、粘土粒子に静電相互作用で吸着し得ないAR91の吸収スペクトルが粘土コロイド中で系統的に変化すること、およびそれがpHによるものではないことを見いだした。また、色素の発光については、粘土コロイド中で増強されることを見いだした。これらは、粘土-色素相互作用に関する新規な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗状況がやや遅れている理由は、コロナ禍により、2020年6月末まで研究機関への入構と研究活動ができなかったことによる。また、研究活動開始以後も、感染予防のため実験が間欠的になった。そのため、十分な量の実験を行えず、ゾルゲル転移の影響のような長時間の追跡を必要とする実験も行えなかった。 ただし、実験量を除けば、事前の計画に沿って順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果にもとづき、アニオン性色素の吸収・発光挙動に及ぼす粘土コロイドの影響を確立する。まずは、AR91を用いる系での再現性と、コロイドのpH、温度、共存イオンなどの影響を調べる。吸収・発光以外の挙動、たとえば粘土粒子への吸着の有無、色素分子の振動状態や電子状態を調査する。特に、吸収スペクトルにおける等吸収点を伴う変化は予想外の結果であり、この解明をめざす。(方法は現在検討中) また、AR91以外の色素で同様のことが起こるかを調べる。これにより、現象の一般性を明らかにするとともに、当初目標とした粘土コロイド中での光の3原色の発光への足がかりを得る。 さらに、前年度は、ゾル状態の粘土コロイドを用いた調査しか行っていなかったが、粘土コロイドのゾルゲル転移が色素の分光学的挙動に及ぼす影響も調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:コロナ禍により研究活動に制約が生じたため。特に、研究機関への入構が制限され、消耗品の購入が当初予定よりも大幅に減少した。また、調査研究や成果発表のための旅行も行わなかった。 使用計画:研究活動が徐々に正常化されつつあるので、前年度よりも使用額は増え、当初予定に近づく見込みである。また、色素の吸収スペクトル変化に関する知見を得るため、絶対反射率測定付属ユニットを購入する。
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