研究課題/領域番号 |
20K05676
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
久保 史織 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20435770)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カーボン多孔体 / 細孔 / 細孔壁厚 / ナノ構造制御 / 糖 / 糖型両親媒性分子 / 水熱合成 / 界面相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では、糖とアルキル部を併せ持つ特徴的な分子構造に由来し、テンプレート表面に配置し薄いカーボン層として析出することがのぞめる糖型両親媒性分子を原料とし、水熱合成によりカーボン壁がナノレベルで薄く、分離・触媒担体や電極材として有用な新しいカーボンナノ構造体や高空隙率のカーボン体を作り出すことを目指す。 今年度は前年度の結果を踏まえ、テンプレートに対する糖型両親媒性分子の仕込み比や温度等の水熱合成条件を変化させた。またこれまで合成されたカーボンに対し、電子顕微鏡観察により内部構造を詳細に解析した。さらに、カーボン原料として着目する単糖モノアルキル置換体の選択的かつ大量合成手法の確立に取り組んだ。 特に、無機メンブレン(1-)、無機基板(2-)、および高分子ミセル(3次元)をテンプレートとする合成系について、主に二糖モノアルキル置換体を原料とした結果、無機メンブレン系では、得られるカーボン体壁面に、前年度と類似のナノスケールのテクスチャが確認された。一方で、壁厚が小さい様子は確認されなかった他、無機基板系では基板上にカーボンの析出がほとんど見られなかった。これらの結果より薄壁形成には、仕込み比や温度等の水熱プロセスに関わるパラメータの制御に依るよりも、原料やテンプレートの化学種の制御に依るより直接的な相互作用制御が重要となることが分かった。また高分子ミセル系ではある水熱条件において、テンプレート構造に沿ってカーボン壁が形成される様子が認められた。 単糖モノアルキル置換体の合成ではスケールアップに成功し、1回の合成で最大で約2倍量の原料が得られるようになった。これを元に今後、スケールアップとモノ置換体の選択性向上との両立を図るべくさらに検討する。 今年度の成果を元に今後、テンプレートの化学種および糖型両親媒性分子の化学構造を積極的に変化させて、カーボン薄壁形成の達成を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
原料となる糖型両親媒性分子の大量合成法の確立および置換数の選択性の向上に関する検討を重要と判断し優先した。ここで、原料の合成量および選択性向上を判断するためには、有機合成の収量ならびに得られる糖型両親媒性分子の置換数ごとの収量を詳細に把握する必要があったため、有機合成反応および精製の各工程における収量についての定量評価、および分離される各フラクションに対する化学種の同定と定量評価を進めた。また、薄壁形成の土台となるテンプレート表面でのカーボン析出が、一部の系では起こりにくいことが分かり、予想以上に困難であった。これらの理由から、原料合成について進展が見られたものの、全体として予定より遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、水熱合成の実施を優先して研究を進める。原料合成についてはまず今年度確立した手法を用いるが、高収量およびモノ置換体の高選択性の両立された有機合成手法が見出されればその方法に移行する。 具体的には、原料とテンプレートの種類、および水熱条件と得られるカーボン構造との相関を、水熱合成を行って実践的に調べる。また0~3次元テンプレートのうち、当初よりもカーボンの構造体としては、新規性および応用の観点から1~3次元系がより重要であると判断し、先行して検討し水熱合成に関する初期的知見をこれまで得てきた。今後も引き続き1~3次元系に優先的に焦点を当てて検討し、まずカーボンをテンプレート界面に安定的に析出させ、次いでカーボンの薄壁形成を目指す。 より詳細には、今年度の研究実績に基づいて、糖型両親媒性分子の化学構造、または基板の化学種、あるいはそれら両者を変化させて水熱合成を行う。なお、水熱合成における濃度や温度等のパラメータは、同じく今年度の実績に基づき適切な条件を探索する。なお、材料評価についてはスループットを上げるため、場合によっては依頼分析も活用する。 また、1次元テンプレート系については、これまで薄壁形成は確認されていないものの、ナノスケールのカーボン構造体が形成されることが見出されている。これに関し、目的とする薄壁構造ではなくとも、1次元構造体すなわち高アスペクト比のカーボンナノ構造体は、吸着材等の各種応用において有利であると考えられ、よって本合成系については薄壁形成を狙う以外にも、この方向に展開することも考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
水熱合成実験に遅れが生じたため、材料評価のために予定していた費用の支出が少なかった。また海外の学会への参加を見送ったためこれに関する支出も少なかった。この他、電顕観察による材料評価について、当初、依頼分析により行うことを予定していたが、初期の構造解析においては、自身で観察を行い、合成されるカーボン固体における構造の全体像を詳細に把握することが重要であると判断し、所内の装置によって自ら行うこととした。これによって依頼分析を使用する際との差額が生じた。 次年度は、原料合成を継続しながら、合成した原料を用いたカーボンの水熱合成に焦点を当て、合成したカーボンの材料評価を進める。このため、原料合成に伴う消耗品に関する支出の他、特に、自身で行う材料評価に加え、研究の進展に応じて、研究を加速させるために併用する依頼分析に関する支出が多く見込まれる。
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