研究課題/領域番号 |
20K05679
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
浅野 素子 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80201888)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 銅錯体 / エネルギー変換 / 発光 / 励起電子構造 |
研究実績の概要 |
本研究は特に長寿命が期待されるフェナントロリンとジホスフィンを1つずつ配位子としてもつヘテロレプティック型Cu(I)錯体において、それらの励起電子構造・スピン構造、および励起状態からの緩和と反応性について、高効率光エネルギー変換系の構築をめざし、配位子依存性の観点から、明らかにすることを目的としている。 昨年度、フェナントロリン配位子の電子吸引性の増加によって、へテロレプティック型Cu(I)錯体において、その励起状態の特性が顕著に制御されることを見出した。これは、これまでの、ジホスフィン配位子により発光緩和過程が大きく支配されるが、フェナントロリン配位子の置換基のわずかな差異に関しては比較的敏感ではないという知見に対し、新たな側面からの知見を与えるものであった。そこで本年度は特に励起状態の構造変化に関し、立体障害の大きな置換基をもつフェナントロリン配位子を持つ錯体に着目し研究を行った。その結果、あるジホスフィン配位子との組み合わせでは無輻射遷移の抑制だけでなく、輻射遷移が増強されるという結果をえた。特にOLEDなどの発光素子の設計に重要な知見をもたらすものであった。 一方、昨年度、特徴的な置換基をもつフェナントロリンを配位子とするヘテロレプティック型Cu(I)錯体において時間分解ESRスペクトルを測定することができたが、本年度それらのスペクトルの解析を行った。その結果、一般にフェナントロリン・ジホスフィン配位子をもつヘテロレプティック型Cu(I)錯体の最低励起状態は金属イオンからフェナントロリンへの電荷移動遷移(MLCT)であるが、これらの錯体においては有意の割合で(π,π*)励起状態が混合していることが明らかとなった。これは、励起三重項におけるゼロ磁場分裂定数が小さくなっており、励起状態寿命が長くなっていることから導かれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造変化に対する大きな立体障害となる置換基を有するフェナントロリンを配位子とするCu(I)錯体において、置換基による光励起緩和過程における無輻射遷移・輻射遷移の影響を見出すことができた。このことは、より発光強度の高い錯体の設計に非常に重要な知見であった。また、時間分解ESRの解析により、ある種の錯体ではそのMLCT最低励起状態に(π,π*)励起状態の混合が起こっていることを、ゼロ磁場分裂という明確な物理量をもとに示すことができた。また、これまで溶液中での光特性および励起状態構造について実験と解析を進めていたが年度後半から薄膜固体中での評価を目指し、ほぼほぼ測定に耐えうる固体薄膜試料の作成が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにフェナントロリン配位子の置換基の電子吸引性によって発光過程が制御できることが明らかとなったが、電子供与基をもつ錯体についての実験を次年度は進めていく。系統的に配位子置換基の電子吸引性・供与性と励起状態構造との関連を明らかにしていく。一方で、構造変化を制御する位置にあるフェナントロリン配位子の置換基の嵩高さによって無輻射遷移の抑制が観測されたが、さらにこの配位子と、長寿命の傾向を示すジホスフィン配位子との組み合わせであらたな銅(I)錯体の長寿命化、高発光化をめざす。 また、薄膜固体中での発光測定にもとづき、固体中での励起構造と緩和過程を明らかにする。溶液中との挙動との共通性と違いの観点からも、励起構造と発光特性に関する考察を行い、錯体設計に対する知見を得る。また、人工生体膜中での反応条件についてさらに検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の機器について、当初予定していた機種が製造中止になり、後継機種がないため他のメーカーの該当機種を調査している。その仕様検討を慎重に行っているため、購入が遅れている。実験は、同じ建物内の他研究室の装置を使用させていただいて何とかなっており、多少の不便はあるものの、研究の進捗には大きな支障は生じていない。生じた差額は機器の購入に充てる予定である。
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