研究課題/領域番号 |
20K05681
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
平山 尚美 島根大学, 学術研究院理工学系, 准教授 (70581750)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熱電物質 / 第一原理計算 / 不純物ドープ / 等電子不純物 / 化学圧力 / 有効質量 / ゼーベック係数 |
研究実績の概要 |
本研究では、高効率かつ環境低負荷な熱電材料の創成に向けて,理論・数値計算・実験を連動させた材料設計指針の取得を目標としている。2020年度は、不純物原子と欠陥の寄与に関する研究に取り組んだ。 その一つは、実験家と連携して行なったSb+Zn同時添加Mg2Siの研究である。この物質は高い出力因子と低い熱伝導率により、優れた熱電性能を示す。本研究では、第一原理計算と、広域X線吸収微細構造解析(EXAFS)および硬X線光電子分光(HAXPES)による実験とを組合わせ、高い熱電性能の起源となる電子状態と微視的構造を明らかにした。第一原理計算から、Sb はSiに安定に置換され、その際、最近接原子(Mg)との距離が5%以上広がることが示された。この結果は、EXAFSから得られた局所構造と定量的に一致する。さらに、置換したSbからはN型キャリアが供給され、同時にバンドギャップが減少すること、一方でZnドープではキャリアは放出されず、フェルミ準位付近の電子状態も変化しないことが理論的に示された。この結果も、HAXPESによる光電子スペクトルから求めた電子状態の変化と一致した。以上から、SbはN型ドーパントとして出力因子を最大化する役割を担う一方で、Znは等電子不純物としてフォノン熱伝導率を下げるため、優れた熱電特性が実現されることが分かった。本研究はApplied Physics Letters誌のfeatured articleに選出された。 その他の研究成果としては、侵入型のMg欠陥や不純物原子に着目し、その化学圧力効果がバンドギャップだけでなくキャリア輸送特性にも影響するメカニズムを解明した。今後は、この結果を応用して、高い電気伝導率とゼーベック係数を同時に実現する新しい開発戦略を示していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、計算機と複数の第一原理計算コードを導入した。それにより、電子物性や構造特性に対する不純物添加効果など、いくつかの調査を本格的に推進でき、実験事実を再現する結果が得られた。研究の次の段階では、第一原理計算と機械学習を組み合わせた研究を行うが、その土台となる計算技術の確立と、調査する系の選定も完了している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに確立した計算手法を土台として、不純物原子とMg欠陥の濃度と分布を細かく振ったhigh-throughput計算と、そのデータを用いた機械学習による解析に取り組む。まずは、不純物添加系における微視的な構造特性と熱電性能の関係を調査する。その後は、KKR-CPA法を用いて、高温における電子物性および熱電物性の解析手法の確立に取り組む。 このような、不純物原子や格子欠陥を含む局所的な構造特性や有限温度効果は、理論的、数値的な取り扱いが困難だが、材料の熱電特性を定量的に扱う理論を確立するには避けて通れない課題であると考える。これまで用いてきた第一原理計算だけでなく、機械学習の手法も取り入れてこの課題に取り組み、計算機による熱電材料開発を大きく進めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通りの金額を使用したが、使用計画提出時から数ヶ月経って、ソフトウェアの価格が変動し、差額が生じた。余った金額は次年度に繰り越し、物品購入などに使用する予定だが、これは少額のため、当初の計画に大きな変更はない。
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