高効率かつ環境低負荷な熱電材料の創成に向けた理論的アプローチの確立を目指し、2022年度はシリサイド材料の不純物ドープに関する研究を継続するとともに、KKR-CPA法に基づく輸送係数計算を実施した。 昨年度までに実施したMg2Siの研究では、熱電性能向上に向けた格子変形(等方的な伸長)によるアプローチを考察した。この手法では、格子定数増加により、ゼーベック係数と電気伝導度を同時に向上させるバンドエンジニアリングを目指している。2022年度は、この手法の実現を目指し、Mgサイトに等電子不純物(Ca、Sr、Ba)を置換した場合について検討した。その結果、Caドープ系では、伝導帯のbottomとその直上のバンドが接近し、熱電性能向上に有利な電子状態が得られることが分かった。さらに、このときのCa原子の分布も、熱電特性に影響を与えることが示された。しかし、キャリアドープ時の熱電係数計算からは、N型の出力因子に改善は見られなかった。一方、P型ではゼーベック係数の増加に伴い出力因子が改善したため、本手法はP型の性能向上に有効であることが示唆された。 他のシリサイド材料としては、低温の熱電材料として注目されるSrSi2について研究を行った。これまでの研究から、hybrid汎関数を用いることで狭バンドギャップを再現できることが分かっている。2022年度は、この手法により不純物ドープ効果を調査した。その結果、この物質で安定なN型伝導性が実現できない理由を解明し、現在、論文出版の準備を進めている。 もう一つのテーマとして、実験で用いられる低濃度ドープ系を扱う場合に適した手法としてKKR-CPA法を導入し、有限温度におけるフォノン散乱の効果を取り入れた計算を実行した。得られた電子状態を基に、久保グリーンウッドの式による輸送係数計算を実行した結果、シリサイド材料の電気伝導率とゼーベック係数を精度よく再現した。
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