研究課題/領域番号 |
20K05685
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
今西 誠之 三重大学, 工学研究科, 教授 (20223331)
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研究分担者 |
田港 聡 三重大学, 工学研究科, 助教 (60771201)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | セラミックス膜 / 固体電解質 / 空気電池 / 高エネルギー密度 |
研究実績の概要 |
空気電池は開放系のシステムであるためその作動は大気中の成分の影響を受ける。特に水溶液系空気電池の場合、二酸化炭素の溶解に伴ってLi2CO3が生成・沈殿し、利用可能なリチウムイオンが減少することになる。本研究では酸性水溶液を用いて二酸化炭素の溶解を抑制することでこの問題の解決を試みた。本電池には正極と負極の電解液のセパレーターとしてリチウムイオン導電性固体電解質を使用する。この材料にはNASICON構造をもつチタノリン酸リチウムの誘導体であるLi1.4Al0.4Ge0.2Ti1.4(PO4)3(以後LAGTPと表記)を用いた。まずこの物質の酢酸酸性水溶液中での安定性を確認した。HAc + sat. LiAc (9:1 v / v) 水溶液中において抵抗の増大は観測されず、結晶構造の変化もなかったので、LAGTPは当該酸性水溶液中で安定であることが確認された。 次にLAGTPにTiO2を混合し共焼結させることによって強度向上を試みた。それぞれの粉末をボールミルで粉砕混合し特定の温度・時間で焼成を行った。得られた試料は微量の不純物が観測されたが、これらは過剰なTiO2が反応して界面に生成したものと考えられる。得られた試料のイオン導電性と3点曲げ特性を測定した。粒界伝導を含む全導電率は1.5×10-3Scm-1と高いものであったが、抵抗の大半は粒界にあることも分かった。機械特性は約200 N/mm2 (200MPa)と高く、TiO2無添加の場合に約50 N/mm2であることから、約4倍の強度向上が達成された。この試料で作成したセパレータは100ミクロン程度まで薄膜化しても割れないことが分かった。 セラミックスの膜は多孔質であることから、電解液の透過を完全に抑止することはできない。溶液透過を抑止するため上記のLAGTP-TiO2共焼結膜についてポリマーを含浸させた複合膜を合成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本電池の実用化への課題の第1は、セラミックスで構成されるセパレータの開発である。このセパレータが満足すべき性質は、(1)酸性水溶液電解質中で安定、(2)液を透過しない、(3)室温でも高いリチウムイオン導電率、(4)機械的強度に優れる、(5)容易に薄膜が作成できる、および(6)金属リチウムに安定である。 (1)については安定であることが確認できた。(3)(4)(5)はそれぞれ相互に関連している。セラミックスは重量が重いため、膜が厚くなると電池のエネルギー密度の低下を招く。できるだけ薄くする必要があるが、それを可能にするには十分な機械的強度が必要である。実際のところ固体電解質LAGTPの薄膜の機械的強度は十分ではないため、高い靭性と高いリチウムイオン導電性を併せ持つLAGTP薄膜の開発を進めた。その結果、高リチウムイオン導電性を維持しつつ強度増強を達成することができた。設定した6課題の半分を解決したので、「おおむね順調に進展」の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
設定した6課題の内、残された(2)液を透過しない、および(6)金属リチウムに安定、の2課題の解決を今後の目標とする。液を透過させない工夫としては焼結後のセラミックスへのポリマーの含浸を行う。液が透過しないことと同時にイオン導電性の大きな低下が起こらないことが要求される。 次に(6)金属リチウムに安定、については、ある種のガーネット型酸化物が金属リチウムに還元されないことが知られている。しかし、この酸化物は水に不安定であるため酸性水溶液を用いる本空気電池には適さない。従って、水に安定なLAGTPを用いてこの課題に対処することが現実的である。具体的には金属リチウムの上に保護被膜を形成ないしはセパレータを挟むことによってリチウムとLAGTPが直接接触しないようにする。ただし、金属リチウムにはデンドライト状析出という大きな課題がある。開発する被膜やセパレータはデンドライトを抑制できるものでなくてはならない。当初はポリマー膜による表面被覆を検討する。
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