研究実績の概要 |
二酸化炭素 (CO2) を還元して再資源化する人工光合成系の開発は現代社会における最重要課題であり,この研究領域は近年目覚ましい進展を遂げているが,天然光合成系と比較すると未だ改善すべき点は多い.その中で本研究では,天然光合成が空気という極低濃度のCO2を含む混合ガスを原料としていることに焦点を当て,このような混合ガス中のCO2を直接利用可能な光触媒の創製を志向した研究を行なった. 触媒設計として,各種ガスをはじめとする物質分離について近年盛んに研究されている多孔性配位高分子 (PCP/MOF) に着目し,CO2還元用光触媒としての要素である,1) 触媒反応活性点, 2) 光捕集部位, 3) 還元剤, との複合化を検討した.各種測定により,合成した複合材料は母体となるPCPの骨格構造を保っており,かつCO2を捕捉可能なミクロ孔を有する多孔性固体材料であることを明らかにした. 1)のうちルテニウム(II)錯体触媒を固定化したPCP複合触媒については本研究開始前にも既に発表していたが,この触媒のCO2還元における反応活性および生成物選択性について反応条件を種々変化させて詳細に調べたところ,本触媒のミクロ孔内ではPCPによるCO2分離・濃縮効果により局所的にCO2高濃度環境が形成され,その場でCO2還元が行われていることを強く支持する実験結果が得られた.本結果は,PCPによるCO2分離・濃縮が膨大な先行研究がある気相中だけでなく,溶媒懸濁条件下でも機能することを明らかにした点および,活性点自体の反応性を高める設計ではなくミクロ孔内での濃度変化を活用した反応系という触媒設計を提示した点で,物質分離・変換の双方の観点から重要な意義を持つ. また,金属ナノクラスターを触媒活性点とするPCP複合触媒によるCO2還元や,新規な分子性金属錯体触媒の設計・合成とCO2還元能についても検討を行なった.
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