研究課題/領域番号 |
20K05690
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
久保田 圭 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 主任研究員 (50709756)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | フッ化物 / 正極材料 / 電池材料 / カリウムイオン電池 / 二次電池 / 機能性セラミックス材料 / 固体イオニクス材料 |
研究実績の概要 |
2年目に当たる2021年度は、高性能なカリウムイオン電池用正極材料の創製を目指し、F/K比が1を上回るフッ素含有量の多いカリウム材料の合成を行った。その結果、リン酸塩の副相としてフッ化物が得られ、合成条件の最適化によってF/K比が2のカリウム二次電池正極材料として新奇なカリウムバナジウムフッ化物の合成に成功し、可逆的に充放電可能であることを見出した。電池分野でポリアニオン化合物と呼ばれるオキソ酸系材料ではないものの、バナジウムはポリ酸を形成することもあり、ポリアニオン化合物に類似した骨格挙動を振る舞う可能性を有している。 当該カリウムバナジウムフッ化物材料は、アニオンが電気陰性の高いフッ化物イオンであるため、予想通り作動電位は高く、約3.7 V vs. K+/Kであった。可逆容量は100 mAh/gと比較的小さいが、これは主にカリウムの原子量に由来しており、既報のカリウム系正極材料に決して劣るものではない。一方で、F/K比が2.8となるよりフッ素量の多いカリウムバナジウムフッ化物の合成にも成功したが、3.8 Vに充電過程で電位平坦部を僅かに示すものの、放電過程では電位平坦部を示さず、可逆容量は30-50 mAh/gと非常に小さかった。これは充放電に伴うカリウム脱挿入に対する結晶構造の安定性に課題があることを示唆している。 前者のカリウムバナジウムフッ化物の充放電機構を明らかにするため、ex-situ 実験室系X線回折測定を行った。その結果、僅かに結晶性の低下は見られるものの、カリウム脱挿入を伴う充放電反応によってほぼ可逆的に結晶構造が変化することを明らかにした。さらに、3年目に予定していた放射光硬X線吸収分光法による電子状態の観察も実施し、充電過程でバナジウムがおよそ3価から4価へと酸化し、放電過程では初期の3価に近い状態へと可逆的に還元することを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高F/K比で新奇なカリウム二次電池用カリウムバナジウムフッ化物材料を合成し、そのカリウム二次電池特性を評価し、予想通りの高電位作動かつ可逆的な充放電挙動が得られている。2年目に予定していた充放電反応メカニズムの解析として、実験室系X線回折による構造分析も終え、3年目に予定していた放射光硬X線吸収分光法による電子状態の解析も終えており、概ね順調に進んでいる。 電池分野でポリアニオン化合物と呼ばれるオキソ酸系材料ではないものの、ポリ酸に近いフルオロバナジン酸カリウムとも見なせる材料であり、オキソ酸と遷移金属のポリ酸の架け橋となる材料系であり、発展的研究になってきている。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度及び2021年度の研究結果から、安定性の高いとされるリン酸-遷移金属酸化物骨格は勿論、バナジウムフッ化物の骨格構造でも、イオン半径の大きなカリウムイオンでは、カリウムの脱挿入に対する構造の安定性も重要視する必要があると分かりつつある。また、構造に違いはあっても、高F/K比で高電位作動に繋がることは明確になりつつあり、リン酸フッ化物からフッ化物まで広く体系的な材料研究となってきている。 そこで、最終年度である2022年度は、高電位作動を見出したバナジウムフッ化物の充放電反応メカニズムをより詳細に明らかにするため、放射光X線回折やオペランドX線回折を利用したより詳細かつ緻密な構造解析に取り組む。さらに購入予定の電気化学測定装置を用いて、より精密な電気化学測定を行う。 また、メカニズム解析と並行して、カリウム脱挿入に優れたトンネル構造を有するリン酸塩および硫酸塩材料を探索し、カリウム二次電池特性を評価して結晶構造や配位元素との相関を抽出することで、更に高性能な正極材料の設計指針を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に電気化学測定装置の購入を予定していたが、現所属への異動のための注文時期の変更、新型コロナウィルス感染およびロシア-ウクライナ問題の影響で、納期が大幅に長期化されたため、2022年度に購入することに変更した。前所属でのサポートもあり、研究は概ね順調に進んではいるが、電気化学特性は基本測定に留めることとなり、精密な測定や長期充放電試験は装置購入後を予定している。2022年度に電気化学測定装置を購入し、電池特性の評価実験を加速させる。
|