高性能なカリウムイオン電池用正極材料の創製を目指して、フッ素の高い電気陰性を利用した“高エネルギー密度”ポリアニオン系正極材料を創製を目的として、フッ素と酸素を複合した遷移金属-ポリアニオンを骨格構造とするリン酸塩や硫酸塩材料を探索してきた。 最終年度の2022年度は、2021年度に見出したF/K比が2の新奇なカリウムバナジウムフッ化物カリウム電池正極材料に対して、放射光X線回折測定を利用して詳細に結晶構造を調べた。その結果、報告されていた立方晶系構造とは異なる全く新しい結晶構造の直方晶系材料であることが分かった。また、これまではカリウム電池での電気化学容量の可逆性からカリウム脱挿入反応を推測していたが、元素分析によって充放電で可逆的にカリウム量が変化することを明らかにした。さらに、購入した充放電評価装置を利用して精密に電気化学特性を評価することで、当該材料は充放電によるカリウム脱挿入に伴って中間相を複数経て構造変化が進行するという充放電メカニズムであることを明らかにした。 本研究3年間を通して、新規なフッ化ポリアニオン系カリウムイオン電池正極材料として、F/K比が0.87のK3V2Ox(PO4)2F3-xから、F/K比が1の鉄系フッ化リン酸カリウム、そしてF/K比が2およびF/K比が2.8のカリウムバナジウムフッ化物を合成し、そのカリウム電池特性を見出した。さらに、申請時の予想通り、高フッ素量材料の方が高電位で作動することを明らかにした。一方で、鉄系フッ化リン酸カリウムおよびF/K比が2.8のカリウムバナジウムフッ化物は充放電の可逆性が乏しく、充放電中の構造の安定性が構成元素やF/K比に大きく依存することが分かった。最終的には、F/K比が2の新奇なカリウムバナジウムフッ化物のカリウム電池特性が最も優れており、可逆的なカリウム脱挿入による充放電反応を示すことを見出した。
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