色素分解酵素DyPを大腸菌に発現させ、大腸菌を培養しながら、色素を分解するシステムの構築を試みている。色素分解活性の至適pHを4から8に変換し、大腸菌内で過剰発現させたが、活性中心であるヘムを含まない状態で発現したため、色素分解活性は向上しなかった。そこで、タンパク質とヘムが共有結合しているシトクロムcを利用することにした。シトクロムcは分解酵素ではないので、アミノ酸置換により色素分解活性を付与させることを試みた。前年までの研究から、色素分解活性には次の三点が必要であることがわかっている①過酸化水素との反応、②活性部位となるタンパク質表面のラジカル形成部位、③基質の親和性を向上させるために活性部位近傍に芳香族残基の導入 ①のためにヘムの配位子であるMet80をValに置換したその結果、活性は2倍に増加した。②のために表面に存在する4つのTyrを置換した結果、Tyr48とTyr74が活性に関与することがわかった。これらの残基の周辺で、側鎖が表面に露出しているPro76をTrpに置換したその結果、活性は約3倍に増加した。さらに過酸化水素との反応性を上げるため、ヘムの配位子であるHis18から4Åに存在するGly29をAspに置換した結果、酸化活性は約100倍に増加した。 本研究課題では、DyPを活用し、難分解性化合物を分解するシステムの構築を目指した。DyPの構造解析と機能解析により得られた知識をもとに本来活性のないシトクロムcを色素分解酵素に変換することに成功した。過酸化水素との反応性が高すぎ、自分自身を分解してしまうという問題点が生じたため、大腸菌を利用した分解システムの構築には成功していないが、今後はヘム周辺で生成したラジカルとタンパク質表面まで移動させる経路を整備することで、ラジカルを高効率で色素分解につなげ、難分解性化合物の分解システムの構築が可能になるものと期待できる。
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