研究課題/領域番号 |
20K05701
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松井 敏高 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (90323120)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ビリン / 蛍光タンパク質 / ヘム代謝 / テトラピロール / タンパク質ラベル化 |
研究実績の概要 |
ヘム代謝における特殊な生成物(特殊ビリン)の内、今年度は主にS置換型ビリベルジン(SBV)およびS置換型ビリルビン(SBR)の検出プローブの開発を試みた。SBR用の鋳型としては、ビリルビン(BR)を蛍光団とすることが知られている唯一の蛍光タンパク質UnaGを選定した。野生型UnaGはSBRを強く結合し、BR結合型に比べて最大蛍光波長は約70nmも長波長シフトしていた。しかし、SBR型の蛍光強度はBR型の約1/360に低下しており、SBRの選択的検出は困難であった。そこで、UnaGへの35種の変異導入によってBR結合部位の周辺構造を改変したところ、N57E置換がBR結合型UnaGの蛍光強度のみを約1/30に低下させることを見出した。この結果、長波長領域でのSBR選択的な検出は可能となったが、SBR-UnaGの蛍光強度を向上させる変異体は得られておらず、現時点での高感度検出は難しいと考えられた。 そこでビリベルジン結合蛍光タンパク質smURFPを用い、S置換型ビリベルジン(SBV)の検出を試みた。SBV結合型の蛍光強度はsmURFPにおいても弱まったが、BVの1/3程度のシグナル強度が観測された。今後、変異導入によってsmURFPのBV親和性の低下やSBV蛍光の長波長シフトなどを実現すれば、実用的なSBV選択的検出プローブの開発が期待される。 また本年度はヘムを異常に歪めて結合するMhuD型酵素の特殊な構造の解析を、EPRおよび共鳴ラマン散乱の測定によりすすめた。歪みの影響はヘム鉄の配位子にはほとんど観測されなかったのに対し、ポルフィリン面内の振動は大きく変化した。これらの結果は、従来のNMR測定による提案と一致し、歪みによるメソ位の反応性向上がヘム分解の初段階において重要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
UnaGを用いた研究ではSBR検出の選択性を高め、混合物からの選択的検出にも成功した。しかし、実用的なプローブとするためには現時点でのSBR結合型UnaG変異体の蛍光は非常に弱い。この蛍光強度低下は主に硫黄による重原子効果と考えられるが、smURFPとSBVの複合体ではBV結合型と遜色ない強度の蛍光が観測された。この結果は重原子効果による強度低下は構造によっては抑制可能なことを示唆しており、次年度以降、UnaGのさらなる構造改変による蛍光強度の向上が可能であることを強く示している。 また、MhuDにおける特殊ビリンの生成はヘムの異常な歪みに起因すると考えられており、特殊な反応性を生み出す構造的・電子的な要因に注目されてきた。現在までにヘム-MhuD複合体のNMRやMCDなどの測定は報告されてきたが、複雑化が予想される振動分光については報告例がなかった。今回、その測定と基本的な解釈をBiochemistry誌に初めて報告することができ、今後の物理化学的な研究の発展に大きな寄与があると期待される。以上のことから、現在までの達成度は「概ね順調に進展している」ものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、UnaGへの変異導入によるSBR複合体の蛍光強度増強を目指す。N57E変異体を鋳型として種々の変異を加え、SBR選択的に蛍光強度を増強させる変異体を探索する。効率的なスクリーニングのため、ランダム変異とコロニーアッセイを組み合わせる。必要であれば、細胞外へのタンパク質発現系を用い、外部から添加したSBRを発現タンパク質に速やかに結合させる。実用的なプローブが得られれば、動物細胞で発現させ、ヘムと硫化水素を添加した条件などでのSBR検出を試みる。同様に、smURFPについても大規模スクリーニング系を構築し、SBV選択性の向上や蛍光の長波長化を試みる。 第二に、smURFPを用いた細菌型酵素における特殊ビリンの検出を試みる。主な対象は黄色ブドウ球菌IsdGのスタフィロビリン(SB)とそのホルミル化体(SB-CHO)、および結核菌MhuDのマイコビリン(MB)である。酵素的に大量調製したこれらの特殊ビリンをsmURFPに添加し、共有結合の形成を吸収スペクトルおよび質量分析によって検討する。複合体が得られれば、蛍光測定によって検出プローブとしての性能を検証する。必要であれば、変異導入による蛍光特性などの改善も試みる。また、結合モードが通常のBVとは異なる可能性が示唆された場合は、MSMSで予備的な構造検証を行い、その後の研究方策(結晶化など)を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において旅費や人件費などへの支出がなくなった。また、購入を考えていた消耗品がほとんど在庫品で間に合ってしまい、今年度の追加購入が不要となった。次年度はコロナ対応が漸減すると考えており、今年度に先送りした高額消耗品の購入に充てる予定である。
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