外来蛋白質を細胞質まで送達可能な技術開発が、精力的に取り組まれている。しかし「(1)分子量の大きな外来蛋白質、蛋白質会合体を、効率よく細胞質内に導入できる技術」、更にそれを「(2)特定の組織や細胞に選択的に導入できる技術」については、依然として検討が必要な段階にある。本研究では、複数のアルキル鎖を含むカチオン性ペプチドを精密に分子設計することによって、上記(1)、(2)の課題解決が可能な蛋白質キャリア分子が創出可能か検証を行っている。(1)については、これまでに当研究室で見出されたリポペプチド系の細胞膜透過キャリアDKDKC12-K3が、分子量の大きなp53蛋白質(MW~50kDa)に対しても、細胞内への効率良い導入と、導入された蛋白質の細胞内での機能発揮を可能とすることがわかった。一方で(2)については、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)に対して結合活性を持つGE11とDKDKC12-K3を複合化することで、TGF-bシグナルへの阻害活性を持つSARAペプチドを細胞種選択的に送達でき、細胞種選択的なTGF-bシグナル阻害活性まで可能となることがわかった。細胞種選択的な送達実験では、ミトコンドリア膜へのダメージを経てアポトーシス誘導が可能なPADペプチドについても検討をしたが、こちらのペプチドが過渡なカチオン電荷を持っていることで、細胞種選択性が失われる傾向がみられた。従って今回開発に取り組んだ細胞膜透過キャリアについては、極端な電荷の偏りを持ったペプチドへの利用には制限があるものの、様々なペプチドから蛋白質に対する細胞種選択的な膜透過キャリアとして利用可能であることがわかった。
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