研究課題/領域番号 |
20K05706
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
中川 治 徳島文理大学, 薬学部, 准教授 (90380691)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核酸医薬 / 核酸化学 / 人工核酸 / 核酸デリバリー |
研究実績の概要 |
本代表者らが開発した糖部塩基部修飾型核酸 "BNAP" は、核酸医薬で臨床応用されている2',4'-BNA/LNA人工核酸よりも約150倍も高い驚異的な結合能と、S-オリゴを上回る優れたヌクレアーゼ耐性を有する。本申請研究では、BNAPのプロドラッグ化やデリバリー能等を付与することで、高い薬効と安全性を兼ね備えた人工核酸分子へと発展させることを目的とする。本年度は以下、3項目について検討した。 [1] BNAPを組込んだオリゴ核酸の核酸医薬への優位性の検証を目指し、先立ってBNAPヌクレオシド体の大量合成を実施した。既に開発済みの合成法を採用しつつ、精製工程等を大量合成向けに改良を施し、BNAPヌクレオシドの合成を達成した。 [2] BNAPの塩基部構造であるG-clamp が、体内動態や組織移行性に与える影響を検証すべく、G-clamp塩基をリンカーを介してオリゴ核酸に導入したG-clamp-linker-ODNを設計した。G-clamp-linkerはアミダイト体とすることで、DNA合成機でオリゴ核酸に導入する設計とし、首尾よく合成に成功した。 [3] BNAPと同様に優れた二重鎖形成能を有しつつ合成工程数の大幅な短縮が期待される汎用性の高いBNAP誘導体の創製を目指し、糖部をグリコール核酸 (GNA) に置換したGNAPを設計した。GNAPはBNAPよりも合成工程数の大幅な短縮に成功し、DNA導入前駆体となるアミダイト体の合成を達成した。 次年度以降、上記3項目について、各アミダイトユニットをオリゴ核酸に導入し、相補鎖核酸に対する二重鎖形成能等の基礎物性評価や、細胞を用いた遺伝子発現抑制効果を検証する。また本年度、BNAPの合成、及びその優れた物性を、国際学術誌 Chem. Eur. J. (2021) に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究は、代表者らが開発した糖部塩基部修飾型核酸 "BNAP" の核酸医薬への優れた効果を検証し、薬効向上と安全性を兼ね備えたBNAP誘導体を開発することを目的とする。本年度は、まずその準備として、BNAPヌクレオシド体の大量合成を実施し、大量合成向けに精製工程の改良に成功した。一方、BNAPの人工塩基部 (G-clamp) の生体内動態やデリバリー機能性を検証すべく、G-clamp塩基をリンカーを介してオリゴ核酸に導入したG-clamp-linker-ODNを新たに設計し、G-clamp-linkerのDNA導入前駆体となるアミダイト体の合成を達成した。更に、BNAPの優れた二重鎖形成能はそのままに、合成工程数の大幅な抑制を期待したGNA糖部へ改変したGNAPを設計し、そのヌクレオシド体の合成を達成した。 本年度は、申請研究の基盤となる上記3項目の開発を達成できた。更に、次年度以降で予定としている、上記の人工核酸のオリゴ核酸への導入検討や、その後の詳細な物性評価・細胞評価についても、着実に準備を進めている。よって、本年度は当初の計画通り“概ね順調に進展している”ものと考えている。 一方で、GNAPはBNAPよりも大幅な合成工程数の短縮に成功したが、GNAPにおいても、塩基部G-clampの構築過程が、物性的な取扱の煩雑化、合成工程数の増加の要因になっていることから、G-clamp塩基部の抜本的な構造的改良も必要という知見を得た。次年度以降でG-clamp塩基部の適宜改良も実施することで、BNAP及びその誘導体の優位性を見出す。また、BNAP及びその誘導体を組込んだオリゴ核酸を、細胞を用いた遺伝子発現抑制効果を検証し、その結果をフィードバックすることで、更なる誘導体設計へと推進する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、糖部塩基部修飾型核酸 "BNAP" の合成とその優れた物性を、学術論文Chem. Eur. J. (2021) に発表した。本年度の研究成果として、BNAPの核酸医薬への評価に向けて、まずBNAPヌクレオシド体を大量合成した。更に、BNAPの体内動態やデリバリーの機能性を検証すべく、BNAPの塩基部G-clampをリンカーを介してオリゴ核酸にコンジュゲート可能なG-clamp-linkerを新たに設計し合成を達成した。また、BNAPの糖部をGNAに変更したGNAPも新たに設計し、BNAPよりも格段に合成工程数の短縮に成功した。 本申請研究の基盤となる上記の3技術の開発に成功したので、次年度以降、これらの人工核酸をオリゴ核酸へ導入し物性評価を着手する予定である。一方で、本申請研究を推進するためには、BNAPやその誘導体の安定した原料供給が不可欠である。そのため、物性評価や細胞評価を着実に進めながら、適宜、原料合成を並行して実施することで、研究が滞ることなく推進する予定である。また、次年度以降で予定している、オリゴ核酸の二重鎖形成能やヌクレアーゼ耐性等の基礎物性評価は、既に十分な実験技術を保有していることから、効率よく十分に推進できるものと考えている。一方で、細胞を用いた遺伝子発現抑制効果の検証における実験系についても、実験設備の構築や技術習得も着実に進めており、スムーズに対応可能と考えている。 また次年度以降で、BNAP誘導体の塩基部の機能化や合成法の改良を施し、更なる研究推進を図る。一方で、本申請研究で開発中のBNAP誘導体類は、核酸医薬に限定せず、DNAナノメディシン等の核酸テクノロジー分野への応用の可能性も検証する。また、BNAPのプロドラッグ誘導体化による薬効持続や安全性についても、細胞評価で得られた結果に基づいて、最適な分子設計を施し、着実に推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、申請研究の基盤となるBNAPヌクレオシド体の原料供給、G-clamp-linker、GNAPの設計・合成の3項目が順調に進み、当初の予定よりも少額で、計画していた研究を達成できた。今年度は主に、これらヌクレオシド体合成のための、試薬やガラス器具の購入に経費を使用した。また、ヌクレオシドやオリゴ核酸の分析・分取用のHPLCカラムを購入した。次年度は最初に、BNAP及びその誘導体を、DNA合成機を用いてオリゴ核酸へ導入する。その後、BNAP及びその誘導体を組込んだオリゴ核酸の二重鎖形成能やヌクレアーゼ耐性能等の基礎物性評価を検討する。そして、細胞を用いた遺伝子発現抑制効果の検討も合せて計画している。そのためのDNA合成試薬、分析試薬、天然オリゴ核酸の受託合成、細胞培養試薬の購入に研究費を主に使用する計画である。また、BNAP誘導体の設計・合成も並行して進める予定であり、本年度同様の、ヌクレオシド合成用の試薬の購入も予定している。DNA合成試薬や細胞培養試薬は、ヌクレオシド合成試薬と比較して、高額な費用が見込まれるため、本年度繰越額と翌年度分を足し合わせた予算で、次年度の研究計画を適切に推進できるものと考えている。
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