研究実績の概要 |
鉄は生物の生存に必須の金属イオンである。そのため、生物は様々な鉄獲得機構を進化させてきた。病原性細菌も例外ではない。病原性細菌の主たる鉄源は感染宿主の赤血球に含まれるヘモクグロビン(Hb)で、鉄獲得のプロセスはグラム陰性細菌の場合、宿主の血液を溶血した後 Hbから遊離したヘムをヘモフォアHasAによって外膜受容体HasRにまで輸送するところから始まる。次に、ヘムは外膜と内膜を通り抜けて細胞質で分解される。ヘム分解酵素により環状のヘムが開環することで鉄が遊離する。 私達はこれまで、Pseudomonas aeruginosa, Yersinia pseudotuberculosis, Eikenella corrodens, Porphyromonas gingivalisを研究材料にして 「ヘムの細菌内への輸送」や「ヘムを分解して鉄の抽出」を行うタンパク・酵素 の機能解析を実施してきた。そして、細菌は生育環境に応じて多様な鉄獲得のための仕組みを構築していることを明らかにした。さらに、ヘムの輸送を阻害することで病原性細菌の生育を阻害できることも実証した。こうした研究を通して、好気下での酸素依存的ヘム分解については多くの事項が明らかになってきたものの、偏性・通性嫌気性細菌が嫌気下でヘムを分解する機構については未だ不明な点が多い。そこで、嫌気的ヘム分解経路を解明することが本研究の目的である。本研究を通して得られる知見をもとに歯周病や胃腸炎など病原性細菌による感染症対策、健康的な生活の実現に寄与することを目標とする。 R5年度、酸素に対する感受性が高いプロセスでこれまで困難であった通性嫌気性細菌による嫌気的ヘム分解がS-アデノシルメチオニン(SAM)依存のメチル化を介して起こることを明らかにすることに成功した。
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