研究課題/領域番号 |
20K05717
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
新野 祐介 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (10584584)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 蛍光タンパク質 / レポーター遺伝子 / 蛍光イメージング / タンパク質工学 |
研究実績の概要 |
蛍光タンパク質は、補因子なしに蛍光を生むことができるが、発色団の成熟には時間を要する。そのため、研究対象とする遺伝子のプロモーター下流に配してレポーター遺伝子として用いた際、短時間の発現変動を検出するのは困難となる。本研究は、追従性の高い蛍光レポーターを実現するための「早熟」な蛍光タンパク質の開発を目的としている。前年度には、既に報告しているAchillesよりもさらに成熟のための酸化が高速な黄色蛍光タンパク質(YFP)およびシアン色蛍光タンパク質(CFP)を、大腸菌レベルでの模索・評価により見出した。今年度はこれらの哺乳類細胞における評価と応用を進めた。前年度に立ち上げた、顕微鏡下で培養細胞にmRNAでの遺伝子導入をパルス的に行う実験系を用い、成熟速度を比較した結果、今回開発した早熟CFPは、現在一般的に用いられている明るく成熟の速いCFP mTurquoise2より遥かに、またAchillesやその新規変異体よりもさらに早熟であることがわかった。また実際に、よく利用されているPEST配列よりも強力な分解シグナルであるユビキチンG76Vを融合し、バックグラウンドをより軽減した蛍光レポーターを構築した。培養細胞に導入、顕微鏡観察とともに、プレートリーダーでの測光を試み、ルシフェラーゼを用いた発光レポーターと同様にTNFα濃度依存のNF-κβ活性を測定できることを確認した。二種の遺伝子発現動態の同時可視化を目的に、単一ベクター上でユビキチンG76Vをつないだ早熟CFP・YFPをそれぞれ異なるプロモーター下流に配するデュアルレポーターの検討を開始した。また副産物として、Achillesの酸化速度を引き上げた新規変異体において光安定性も向上しているものを見出し、さらに有効な変異を重ねることで、既報のYFPの中で最も光安定なmGoldを上回る光安定性を持つYFPを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
哺乳類細胞における早熟性の評価実験を開始し、新たに開発したシアン色蛍光タンパク質(CFP)が現在一般的となっているmTurquoise2より遥かに早熟であることが確認できた(既に報告したAchillesや、その新規変異体も超えていた)。また、これらの早熟蛍光タンパク質を用いて蛍光レポーターを構築、プレートリーダーでの測光や蛍光顕微鏡での観察により、NF-κβ応答レポーターでTNFαに対する濃度応答がルシフェラーゼを用いたアッセイと同様に取得できることを確認した。加えて、当初想定していなかった成果として、これまでの黄色蛍光タンパク質(YFP)の中で最も光安定性が高く、かつAchillesと同等に酸化速度の高いYFPも得られたため、本研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
レポーター遺伝子アッセイは創薬に向けたハイスループットスクリーニングに広く利用され、個々の細胞の詳細を追える蛍光イメージングはハイコンテントアナリシスに向く。今回開発した早熟CFP・YFPを用いた蛍光レポーターを、よりハイスループットかつハイコンテントな遺伝子発現動態解析に応用する。具体的には、これらの早熟変異体とユビキチンG76Vの間に核局在配列を挿入、異なるプロモーター下流に配してデュアルレポーターとし、また同一ベクター上にやはり核局在化した赤色蛍光タンパク質(RFP)を配して細胞をラベルして、大量の細胞の継時観察データを自動解析可能にする。NF-κβ活性レポーターを軸に、もう一方に様々なプロモーターを組み合わせ、細胞集団内の細胞ごとに異なる多様な応答の大規模データから、二種の遺伝子発現動態間の相互関係を解析したい。また、哺乳類細胞における蛍光タンパク質の成熟速度測定についても、内部参照を導入することで、今年度新たに得た光安定Achilles変異体も含め、より定量性を上げた精査・比較を行う予定である。
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