極超鎖脂肪酸(VLCFA)は炭素数20以上の脂肪酸であり、その疎水性部位の長さは一般的なリン脂質分子よりも長く、脂質二重膜に対し特有の物性変化を引き起こすことが考えられる。蛍光測定は脂質二重膜の物性解析によく用いられる手法である。この手法をVLCFAにも適用するため、まず、蛍光標識極長鎖脂肪酸の合成を試みた。種々検討の結果、末端付近に傾向発色団であるテトラエンで標識したVLCFA-tetraeneの合成に成功した。この蛍光標識体の蛍光波長や励起波長は、脂質膜の物性評価に良く用いられているトランスパリナリン酸(tPA)と極めて近い値を示し、tPAを用いた評価系をそのままVLCFA-tetraeneにも適用できることが明らかになった。また、VLCFA-tetraeneの末端部位が脂質膜中でどの程度の深度に位置しているかをステアロイルスフィンゴミエリン(SSM)を用いて検証したこところ、脂質二重膜の中央部付近に位置していることが示唆され、VLCFA-tetraeneは二重膜中央付近での膜物性変化を反映することが確認できた。 次に本標識体とtPAを用いて脂質膜中におけるVLCFAが脂質二重膜に与える影響を詳細に解析した。前述のようにVLCFA-tetraeneは膜の深い位置での脂質の状態を、tPAはより浅い位置での影響を鋭敏に反映する。その結果、VLCFAは脂質二重膜の中央付近の秩序を上昇させることが明らかになった。分子動力学計算を行ったところ、VLCFAの末端が反対側のリーフレットに挿入されたり、二重膜中央付近で折れ曲がった構造をとったりすることで、膜中央での密度を上昇させ、膜の流動性を低下させていることが示唆された。
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