近年、様々な生物種においてD-アミノ酸が生理的に重要な役割を担っていることが報告されているが、アーキアにおけるD-アミノ酸の生理機能については全く知られていない。これまでの研究で、超好熱アーキアPyrococcus horikoshii OT3のアミノ酸ラセマーゼ(BAR)がD-allo-Ileを用いた培養により発現誘導されるという知見を得ている。本研究では遺伝子発現解析やEMSA解析、エックス線結晶構造解析によってその分子メカニズムの解明を試み、以下の知見を得た。 ・BAR(PH0138)遺伝子は膜タンパク質をコードするPH0137遺伝子、転写因子をコードするPH0140遺伝子と遺伝子クラスターを形成していた。 ・BARとPH0137の遺伝子発現の挙動は一致していて、D-allo-Ileが発現を誘導し、L-Ileはその発現を抑制するように機能したが、PH0140遺伝子の発現量はL-IleやD-allo-Ileの存在に関わらず変化しなかった。 ・PH0140は転写因子として機能し、L-Ile共存下でDNA結合活性を示し、D-allo-Ile共存下ではDNA結合活性を失った。 ・L-Ile結合型とD-allo-Ile結合型のPH0140の結晶構造を明らかにし、DNA結合ドメインの構造に違いがあることが分かった。 これらの解析から、L-アミノ酸が存在する環境ではPH0140はL-Ile結合型として存在し、プロモーターDNAと結合して遺伝子発現を抑制し、D-アミノ酸が存在するような環境では遺伝子発現の抑制が解除されることが分かり、アーキアにおいてD-アミノ酸が遺伝子発現制御という生理機能を担っていることを初めて明らかにできた。
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