研究課題/領域番号 |
20K05731
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
佐々木 雅人 東北医科薬科大学, 薬学部, 准教授 (30396527)
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研究分担者 |
山本 一男 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (70255123)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | がん代謝 / ユビキチン修飾 |
研究実績の概要 |
テトラヒドロ葉酸(THF)代謝は、核酸の合成やDNA・タンパク質のメチル化(エピジェネティック制御)に関与することから、抗がん剤の標的となっている。THF代謝系の酵素の一つであるALDH1L1、および、ALDH1L2による反応系が、近年、主要なNADPHの供給源であると判明し、活性酸素種(ROS)の制御の観点からも着目されている。ALDH1L1/2発現は多くの腫瘍組織・細胞株で減弱しており、これらががん抑制遺伝子である可能性を見出したが、その詳細なメカニズムや意義については不明な点が多い。従って、ALDH1L1/2発現・活性変動が、(1) THF代謝を含むグローバルな細胞内代謝、中でも、核酸合成やエピジェネティック制御異常をもたらすのか、それとも、(2) NADPH・ROS産生・制御異常をもたらすのかを明らかにすることを目的とする。また、(3) ALDH1L1/2の制御機構を解明することで、発がん・腫瘍進展を制御しえるか否かを明らかにし、新たな抗がん治療薬の開発へ応用する事を目的とする。 これまでにがん細胞株で、ALDH1L1/2野生型(WT)、並びに、酵素活性を欠く変異体(MT)を発現する安定発現株を樹立した。各WT、および、MT細胞のいずれにおいても、通常の培養条件下における増殖速度や細胞内NADPHレベル、並びに、ROS量には顕著な差は見られず、葉酸代謝拮抗剤などのストレス負荷条件下においても、顕著な差は見られなかった。メタボローム解析では、THF代謝系とリンクしたアミノ酸代謝系に加え、プリン塩基合成中間体やその前駆物質合成に影響を及ぼすことを見出し、それらの増減がどのような影響をもたらすかを検討している。さらに、ALDH1L1/2 タンパク質のユビキチン修飾が、特定の細胞外刺激により亢進することを見出し、そのメカニズムや表現型について詳細を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ALDH1L1/2 野生型(WT)、並びに、変異体(MT)を発現する安定発現株を作製した。それらを用いて、酸化ストレスや葉酸代謝拮抗剤などのストレス状況下における細胞増殖能や、NADPH定量、細胞内ROS量などの解析を行ったところ、各WT、MT安定発現株において顕著な差は観察されなかった。メタボローム解析結果では、THF代謝にリンクするアミノ酸の代謝系に加え、ある特定のプリン塩基合成中間体に変化が見られた。その特定のプリン塩基合成中間体は、プロテインキナーゼの活性化を引き起こすことが知られていることから、現在、そのプロテインキナーゼの活性化状態と、下流の標的タンパク質のリン酸化状態等の関係性を調べている。加えて、安定発現株を用いて、プリン塩基合成中間体による感受性の違い等も検討している。さらに、メタボローム解析結果では、プリン塩基合成の前駆物質にも差が見られたことから、その合成阻害剤を用いて、表現型を観察している。 ALDH1L1/2 タンパク質では、ユビキチン修飾と推定される高分子量体が、ウェスタンブロットで観察されるが、WTタンパク質と比較して、MTタンパク質ではその発現量が低いことを見出している。さらに、特定の刺激により、顕著にユビキチン化が亢進することを見出した。現在、ユビキチン化部位の特定や、E3リガーゼの特定等、検討を加えている。 遺伝子改変マウスを作製に関しては、作製準備を進めていたが、他の研究グループから欠損マウスの報告がなされてしまった。そのため、ノックインマウスにするべきかなどを思案中である。
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今後の研究の推進方策 |
メタボローム解析で見出された結果をもとに、プリン塩基合成中間体、および、プリン塩基合成の前駆物質の増減が細胞に及ぼす影響について検討する。細胞死や細胞周期解析や、セルフラックスアナライザーによる、代謝変化について検討を予定している。加えて、RNAシークエンスを用いて、遺伝子変化とメタボローム解析結果、表現型解析結果との相関性を調べる。 ALDH1L1/2 タンパク質のユビキチン修飾は、in vitroによるユビキチン化やユビキチン化部位変異体などを用いて、ALDH1L1/2 タンパク質の活性などに及ぼす影響などを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に遺伝子改変マウスを作製する計画で準備を進めていたが、計画の見直しにより作製を保留したため次年度使用額が生じている。今後、マウス作製をどのように進めるかを思案し、準備を進めていく。 一方、リコンビナントタンパク質の作製に昆虫細胞系を用いるため、その培養装置として、インキュベーターとシェーカーを新調した。次年度はRNAシークエンス解析費やセルフラックスアナライザーの解析試薬等の購入を予定している。
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