テトラヒドロ葉酸(THF)代謝は、核酸の合成やDNA・タンパク質のメチル化(エピジェネティック制御)に関与することから、抗がん剤の標的となっている。THF代謝系の酵素であるALDH1L1、およびALDH1L2発現は多くの腫瘍組織・細胞株でその発現が減弱しており、これらががん抑制遺伝子である可能性を見出したが、その詳細なメカニズムや意義については不明な点が多く残されている。これまでにALDH1L1安定発現株における解析を実施し、ALDH1L1発現によりヌクレオチド合成中間体ZMPの蓄積とSerの減弱が引き起こされることを見出した。ZMPは内因性の生理活性物質としての作用も知られており、ZMPのヌクレオシド体であるAICArの処理は、AMP依存性プロテインキナーゼの活性化や細胞周期停止を引き起こす。ALDH1L1発現細胞とコントロールの細胞を比較した場合、AICArのこれらに対する影響には差が見られなかったが、ALDH1L1発現細胞ではミトコンドリアの活性が高く維持されていることを見出し、その結果を最終年度にScientific Reportsに投稿・掲載された。加えて、ZMPがde novoのピリミジンヌクレオチド合成やsalvage経路に影響を及ぼす可能性について追求し、ALDH1L1発現がそれらに大きな影響を及ぼさず、がん治療においてde novoのピリミジンヌクレオチド合成やsalvage経路に影響を及ぼす核酸アナログ製剤が使用できる可能性を報告した。一方、ZMPと構造が類似したAMPアナログに対する感受性の違いを見出しており、現在投稿に向けて解析を継続している。 期間全体を通じて、ALDH1L2についても解析を行い、現在、ミトコンドリアにおけるALDH1L2の安定性や分解機構について、興味深い結果が得られつつあり、投稿に向け準備中である。
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